(68)今上陛下の「お言葉」と高齢ご退位の意義



(Hpかんせいプラザ主筆) 所  功

八月八日の〝玉音放送〟を拝聴して

去る七月十三日夜NHKテレビにより「天皇陛下〝生前退位〟のご意向」が特報された段階から「数年以内のご退位を望まれているということで、天皇陛下自身が広く内外にお気持を示す方向で調整が進んでいます」と伝えられていた。

それが、八日八日午後三時から約十一分間「象徴としてのお務めについての天皇陛下のお言葉」という題のビデオメッセージとして全テレビ局から放映され、また宮内庁ホームページに和文と英文で掲載されている(動画も視聴できる)。

当日、私はNHKの依頼を受け、陛下と親交のある堤剛さんらと共にスタジオで中継を拝見した。「お言葉」は、凜とした玉音で読みあげられ、大多数の人々に感銘を与えられたが、私も所感を求められ次のようにコメントしたと記憶する。

「陛下が、これまで国のこと国民のこと今後のことを本当に深くお考えになって、この三十年近くをお務めくださったこと、これを将来にわたり続けていくにはどうしたらよいか、考えに考え抜かれて、このようなお言葉になっているのだと思う。大変心打たれました。」

「お言葉」から判る象徴天皇の「お務め」

これは昭和二十年(一九四五)八月十五日の玉音放送につぐ〝平成の玉音放送〟と称しても過言ではないから、その御真意を正確に理解する必要がある。それを私はnippon.comのWeb用に「退位の思い滲む〝お言葉〟を読み解く」と題して詳しく書いたが、ここには要点のみ記し、今後の課題について管見を提示しよう。

陛下は憲法の第四条「天皇は・・・国政に関する権能を有しない」に配慮して、専ら「象徴としてのお務め」を、天皇ご自身がどんな思いで行って来られ、また今後「どのような在り方が望ましいか」を率直に語っておられる。

その「お務め」は、憲法の定める「国事行為」だけでなく、「伝統の継承者として、これ(宮中祭祀など)をやり続ける」と共に、「象徴と位置づけられた天皇」として何をすべきか「日々模索しつつ・・・・人々の期待に応える」ため、いわゆる公的行為に「全身全霊をもって」取り組み続けてこられた。

それらは「国民統合の象徴」という地位にある天皇ご自身が行うべきものであって、徐々に削減したり「摂政」に代行させてすむことではない。だから陛下は、二度の手術を受け八十代に入って「体力の低下」も進む現在、その地位を次の世代に譲ることで「象徴天皇の務めが常に途切れることなく安定的に続いていくことをひとえに念じ」ておられるのである。

超高齢化社会に「退位」で率先して範を示される

こうして公表された「退位のご意向」は、どうしたら実現できるか。この点に関して注目されるのが、七十年前の昭和二十一年(一九四六)十二月、新皇室典範案を審議した帝国議会の貴族院における佐々木惣一議員(京大教授)の提言である。

議事録(国会図書館WEB公開)によれば、旧典範と同じく終身在位を定めた草案の第四条を批判する中で、「天皇が・・・国家的見地から、自分は此の地位を去ることが良いとお考へになる・・・ならば・・・一定の機関(国会)も、それが国家の為になるかどうかと云ふことを判断し・・・(双方)合致した・・・ならば・・・退位せられると云ふ・・・構想は・・・公正なる立場で出来ると思って居る」「それに依って国家の行くべき道、又国民が自己を律すべき道と云ふやうなものが・・・教へられると云ふことになる」と述べておられる。

今回判明した「退位のご意向」は、決してご自身のためだけでなく、現に百歳を越す方もおられる皇室で、「象徴天皇」として「お務め」を十分担当できる若い後継者への引き継ぎを可能にする、まさに「国家的見地から」のご叡慮と拝される。新憲法のもとでは、それを国会も「国家の為になる」と判断し合意することにより、それが実現するならば、超高齢化社会に生きるトップリーダーたちにも「自己を律すべき道」の範を示されることになろう。

当面「特別法」で対応しても早晩「典範」改正が必要

もう一つ参考になるのは、当時典範案審査委員会の幹事を務めた宮内府(のち庁)の高尾亮一氏が、昭和三十七年(一九六二)憲法調査会において説明した「皇室典範の制定経過」(国立公文書館WEB公開)である。終身在位を原則とする典範を変えなくても「退位が必要とされる事態を生じたならば、むしろ個々の場合に応ずる単行特別法を制定して、これに対処すればよい」と述べておられる。

これは現実的な対処法かもしれない。しかしながら、陛下は「どのように身を処していくことが、国にとり国民にとって、私の後を歩む皇族にとり良いことであるか」を考えておられるのだから、一代限りの特別法だけでよいはずがない。

現に「特別法」で天皇が退位され皇太子が「皇嗣」として即位されても、「次の皇太子が不在になる」ことは、七月十三日の第一報にも指摘されている。なぜなら、典範の第八条に「皇嗣」は「皇子」(天皇の男子)か「皇孫(天皇の男孫)だけで、「皇弟」も「皇女」も示されていないから、秋篠宮さまも敬宮愛子内親王さまも皇嗣となることができない。

従って、もし典範第一条の皇位継承者を「男系の男子」に限り続けるならば、第八条を改めて「皇弟」を皇嗣に加え「皇太弟」として立てるか、または第九条を改めて皇族間の養子を可能にすれば、悠仁親王を新天皇の仮養子として「皇太子」に立てるようなことも考えられないわけではない。あるいは将来(およそ20年後)、もし悠仁親王に男子がえられないことまで憂慮すれば、典範の第一条・第二条を改めて皇族女子(内親王と女王)にも継承資格を認めるほかないことになろう。

しかし、当面必要なことは、陛下の「お言葉」から読み取れる「退位の御意向」が、「数年以内」(たとえば二〇二〇年の東京オリンピック前まで)に滞りなく実現できるよう、政府も国会も真剣に取り組むことである。それは当面「特別法」で対処するにせよ、早晩典範第四条に「天皇が崩じたとき、又は皇室会議の議により退位(譲位)したときは、皇嗣が直ちに即位する。」と付け加えるような改正をする必要があると思われる。

なお、皇室会議については、前回「今上陛下」〝生前退位のご意向〟報道に因んで」にも記したとおり、現行の典範によって皇族代表二名と国民(三権)代表八名から成る常設の特別な協議機関(首相が議長)である。従って、皇室に関する重要な課題は、この皇室会議において合議し進言することが望ましい。

             (平成二十八年八月二十三日、九年前に他界した母満百歳の誕生日に記す)

 

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