「皇族数の確保」案に関する国会の論議が必要



「皇族数の確保」案に関する国会の論議が必要

                         (京都産業大学名誉教授) 所  功

4月15日に衆参両院で「皇族数の確保」に関する全体会議が再開され、各党の意見が確認された(中道改革連合のみ途中経過報告)。その後公開された議事録によれば、約1か月後を目途に次回の全体会議を開催し、とりまとめに入るという。

それに先立ち、私は『東京新聞』2月23日掲載のインタビュー記事「直言」(井上靖史記者)や、『週刊新潮』4月2日号の記事のコメントで自らの考えを述べた。その発言内容をもとに、現状と今後の問題点について整理し、管見を参考に供したい。

1 明治と戦後の皇室典範

「皇位は皇統に属する男系の男子が継承する」とした明治以来の皇室典範の規定を、戦後の新典範も踏襲しています。しかし、それ以前にそうした規定はありません。明治維新では、国際社会に仲間入りした日本が、独立を維持するため、軍事的にも強い近代国家を目指し、男性中心の社会構造になったのです。

そこで、国家的な政治も経済も軍事も男性がリードし、女性はそれを補完するという考え方が皇族にもあてはめられたのです。この流れを受け、明治6年(1873)の「太政官達」で、皇族男子は陸海軍に従事することが義務付けられ、その頂点に立つ天皇は、当然男性でなければならないと考えられるようになりました。それに準じて、宮家の当主も男性とされ、その反面、皇族女子は皇族以外の男性と結婚したら皇室を離れることになったのです。

戦後、新しい皇室典範が制定された際、法制官僚や憲法学者の多くは、旧典範以来の男系男子にこだわりましたが、一部に「女帝も認めておくべきだ」という意見もありました。しかし、当時は若い皇太子(現上皇さま)も弟宮(常陸宮さま)も壮年の三笠宮当主もおられましたから、従来通り男系男子に限定しても問題ないと楽観視されたのだと思われます。

2 皇位継承の「原理」と「原則」

講和独立から間もない昭和29年(1954)には、当時自由党の憲法調査会長だった岸信介氏が取りまとめた『日本国憲法改正案要綱』に「皇室典範を改正し、女子の天皇を認める」「皇男子なき場合は、皇女子がこれを継ぐものとする」と明記しています。また、その翌年に保守合同してできた自由民主党でも、中曽根康弘議員などが、同様の主張を続けています。つまり、戦後も万一の場合に備えて女性天皇を容認する議論は広くなされていたのです。

女性天皇(本来「女帝」)の問題を考えるには、例外のない「原理」と例外も認める「原則」の区別を的確に認識することが重要です。「皇位は皇祖以来の皇統に属する皇族身分の方々により継承されること」が、絶対的な原理です。天皇(皇室)は千数百年以上前から唯一の特別な存在ですから、一般臣民のような姓氏(現在の名字に相当)を必要とせず、中国王朝のような父系(男系)を絶対視する原理がありません。ただ、天皇の広汎な重責は、比較的に男性皇族のほうが担いやすいため、男子の継承が大部分であり、それを振り返ると男系で継ぐというのが相対的な原則となりました。とはいえ、決して皇族女子を否定したり排除してきたわけではありません。従って、今後の在り方は、原則として皇族男子を優先に、例外として皇族女子も公認しておくことが必要であり、賢明だと思われます。

3 旧皇族男子孫の養子による皇族化案は……

今の政府は平成25年(2017)の皇室典範特例法案に対して国会から検討を求められた「安定的な皇位継承」という重要な課題を避けて、「皇族数の確保」方策を国会に提示しています。すなわち、以下の二案です。

(1)皇族女子が結婚後も皇室に留まることができる案

(2)旧皇族の男子孫が養子縁組により皇室に入ることができる案

これを検討する協議を求められた衆参両院では、(1)よりも(2)を優先して皇室典範の改正を目指す、と報じられています。

ここで再認識すべきは「皇族とは何か」ということです。

皇族には、もともと皇室で生まれ育った方と、皇后さまや上皇后さまのように、一般国民から入った方々がおられます。このうち後者は、皇族から求められて皇室に入りますので、養子も同じように皇室の方々の意向を汲んで考える必要があります。どんな養子縁組も、相互の合意がなければうまくいくはずがありません。

政府案の(2)にいう「旧皇族」とは、敗戦後まもなく、占領軍の指示による、皇室財産の激減に対処するため、皇族の身分を離れた伏見宮家系宮家の方々です。しかし、その旧十一宮家も男系の若い男子孫が存在するのは四家にすぎません。しかも、一般国民として生まれ育ったそれらの人々が、これから制約の厳しい皇室へ入る意思があるか否か、はっきりしていないようです。またそのような人たちが皇族となることを、多くの国民が理解し、違和感なく受け入れられるか否かもわかりません。

4 現に皇族の身分にある方々を減らさない方策こそ先決

このような問題があっても、養子縁組の制度も、男性皇族不在の非常事態に備えて、可能性を探ることは無意味ではないと思います。しかしながら、それより優先して実現するべきことは、皇族女子が結婚すると皇室を離れなければならない現行制度の改正です。

未婚の皇族は現在6人。秋篠宮家の長男悠仁さま以外すべて女性です。現に活躍中の皇族女子が結婚により次々皇室を去れば、若い世代は悠仁さまのみになる恐れがあります。従って、皇室が十分に活動していくためには、現に皇族身分にある方々を減らさない法改正を急ぐ必要があります。

この場合、問題は配偶者(夫)と子たちに皇族の身分を与えるかどうかです。与野党の中には、母方で皇統につながる女系天皇の誕生につながりかねない懸念が強いようです。しかし、皇族の女子当主と一般国民の夫や子が同居しながら公務を行おうとしても、夫や子の生活費や護衛などに支障をきたす恐れがあります。

そうであれば、夫も皇室に入れば、后妃と同じく皇位の継承資格はありませんが、皇族として皇族費で生活し、宮廷費で公務を行えるようにするのが当然です。また、その子孫も、皇族として公務を担えるようにすべきだと思います。

5 「静謐な環境」で堂々と議論を尽くす

最後に国会議員にも一般の有権者にもよく考えてほしいことがあります。

今後、衆参議長によりとりまとめられる報告に基づき、政府から皇室典範の改正案が国会に上程されるならば、その段階で大切なのは、衆参両院で建設的な質疑応答が十分に行われることと考えます。

高市総理などは皇室典範の改正を「静謐な環境」でおこなうといわれています。ただ、この「静謐な環境」というのは、政治的な利害争いや非常識な言い争いを行わず、憲法の定める象徴世襲天皇制度を尊重し、与野党とも皇室の永続を共通認識として、良識的な合意形成をするために、堂々と見解を述べて議論することです。もし全体会議で、政府案の(1)(2)案を大筋合意したとしても、ここに指摘したような問題点は子細に検討されていないようですから、民意を代表する国会においては具体的な在り方などについて政府が明確な見解を示されるまで議論を尽くしてほしい。それでも納得できない点は、しばらく先送りし(付帯決議とするのも一案)、個別案件について、皇室の方々の意向を考慮しながら、検討を重ねてほしいと思います。

平成29年(2017)に公布された「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」の成立過程においても、有識者会議において「静謐な環境」で議論を進めることが求められました(第1回「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」議事概要、国立国会図書館アーカイブスで閲覧可能)。さまざまな議論がありましたが、最終的に当時の大島理森衆院議長の主導により、与野党を越えた協力によって、「皇室典範特例法」が成立しました。「静謐な環境」というのならば、この先例に学ぶべきだと思います。

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