「皇族数の確保」目指す案議論の〝自己矛盾〟



「皇族数の確保」目指す案議論の〝自己矛盾〟
京都産業大学名誉教授 所  功
重要な議論をする時は、最初に課題と条件を設定し、それに則って各々の意見を述べ合いながら、大筋で賛同できる事と、細部で異論の残る事を分け、賛同部分で当面の結論を出してから、異論部分を引き続き検討する、というプロセスを踏んで進む。
このような観点から、先般来の政府より国会に提示されている「皇族数の確保」案に関する論議を見直すと、残念ながら〝自己矛盾〟と評するほかない混乱がある。それにも拘わらず、一方的な見解を多数決で押し切ろうとしているのではないか。
そもそも、この議論は、平成二十九年(二〇一七)の「皇室典範特例法」案の成立に先立ち、国会で与野党が合意した「附帯決議」を承けて、その課題に取り組むことになっていた。それは「安定的な皇位継承」と「女性宮家の創設」である。
しかしながら、政府が五年前に纏めて二年前に国会へ提示したことは、「皇族数の確保」に限定されている。それは「皇位継承」の有資格者が二代先まで実在されいるのだから、この現状を変えてはならないとして、課題から除外し議論を始めた筈である。
そうであるならば、政府案に基づく国会の協議は、①「皇族女子」が結婚後も新宮家皇族当主として留まれるようにすることも、②旧宮家子孫が養子として皇室に迎えられ皇族となれるようにすることも、「皇族数の確保」が目的であって、皇位継承の資格認否を問題にしないのが当然であろう。ところが、国会では与野党とも課題から外したはずの皇位継承問題を絡めて、無理な結論を急いでいるようにみえる。
すなわち、①皇族女子が結婚後も皇室に残るのであれば、その夫も子も皇族の身分にしてこそ、皇族数が増加し皇族としての公的活動も可能となろう。それにも拘わらず、夫も子も一般国民のまま据え置くというのは、その女性宮家子孫が皇位継承の資格をもち、いわゆる女系の道を開く恐れがある、という憶説を鵜呑みにしているからであろう。
しかし、現行の皇室典範によって、皇族男子と結婚する一般女性が皇族となれるのだから、それと同様、皇族女子の夫も子も皇族として、皇族の公務を分担してもらうことが必要である。その際、皇族女子宮家の子孫は当分(二代先まで)皇位継承の資格を有しない、と「付則」あたりで定めておけば、現在一部の論者が忌避する女系天皇は実現しない。
一方、旧宮家の当主(超高齢者)ではなく、その子か孫で一般国民として生まれ育った男系男子孫を「養子」として皇族の身分にする案は、皇族と一般の区別を曖昧にし、いたずらに混乱を招く恐れがある。ところが、政府案(与野党の多数も賛同)では、その養子皇族の子孫に対しては皇位継承の資格を認めるという。それは今回の議論の前提を逸脱しており、今後の検討に委ねられるべきことであろう。
このような自己矛盾により生じている重大な疑問を直視するならば、直ちに解決できそうにない問題点があることだけでも、衆参両院における議論の場で、多くの国民に対して率直に示してもらいたい。
その上で、議員各位は選挙民の意向もふまえて自分の見解を示し、採決の際は自己責任で記名投票されたらよいと思われる。(平成11年の国旗国歌法案採決には、当時の民主党が、党議拘束を外し、無記名自由投票にしている。)

(令和八年五月二十日記)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA


日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)