日本のソフトパワー/第1回 「お正月の祝い、誓い、願い」



お正月は何故おめでたいか
時間は無限に淡々と流れているが、それを一年(三六五〜六日)という巾で区切る。しかも、その初日を単なる一月一日ではなく、敢えて正月元日と言い、特に「お正月」と称する。そして元日の朝(元旦)を迎えれば、「おめでとう」と挨拶を交わす。

これは、古代に中国から朝鮮を経て伝わり明治の初めまで使われてきた旧暦(陰暦)によれば、一・二・三月が春(四・五・六月が夏、七・八・九月が秋、十・十一・十二月が冬)であり、一月一日は立春に近い〝一陽来復〟の吉日とされた。だから、元日(初めの日)には、かつて文武百官が朝廷で天皇に祝意を表す「朝賀」の儀が行われてきた。その風習が民間にも広まり、新年を寿ぐ互礼や「年賀状」をやりとりするようになったのである。

皇居では、元日の午前、宮殿(松の間など)に三権(内閣・国会・最高裁)などの代表者数百名が参上し、午後には、駐日公館の大使夫妻などが参集して、天皇陛下に祝賀を申し上げる儀式がある(国事行為)。また二日には、午前も午後も、天皇・皇后両陛下と成年皇族が、宮殿(長和殿)で一般国民の参賀を受けられる(公的行為)。

初詣でに何をお祈りするのか
しかも天皇陛下は、元日未明の五時半から、宮中三殿の西脇にある神嘉殿の南庭で、伊勢神宮をはじめ天地四方の神々を遥拝(ようはい)される(四方拝)。続いて、賢所(かしこどころ)・皇霊殿(こうれいでん)・神殿(しんでん)と称される宮中三殿の各内陣で拝礼をされる(歳旦祭)。さらに三日、あらためて三殿で「元始祭」を営まれ、自ら御告文(祝詞)を奏される。

このような皇室祭祀では、常に国家と国民すべての平安を祈られるという。私ども一般国民も、お正月の三ヶ日、ゆかりの神社に初詣でをする人が多い。その神前において、あなたは何をお祈りされるだろうか。

それは各自さまざまであり、真心こめれば何を祈ってもよい。ただ、あえて申せば、まず命長らえて新年を迎えられたことに感謝し、ついでこの一年こんなことを成し遂げたいと思う決意を誓い、さらに、それゆえ護り助けて頂きたいと祈願する、という三要素を含めることが望ましいと思われる。

これは、他の機会に神社・仏閣へ詣でたり、家の神棚や仏壇に参るときも同様であろう。少なくとも私は、まず感謝「いろいろありがとうございました」、ついで決意「これからこういう事をやります」、さらに祈願「どうぞお護り願います」ということを心で念ずることにしている。

一年の計は元旦にあり。その計画を実現するには、しっかり決意を固めなければならないが、その前にこれまでのご加護に感謝し、その上でこれからのご加護を祈願するならば、おそらく神さまも仏さまも、その真心を受けとめてくださるにちがいない、と私は信じている。

日本のソフト・パワーは何か
このような「お正月」の迎え方や初詣での祈りは、世界のどこにもありそうで、案外に少ない。それが日本には、まだ風習としても残り、晴々した和やかな気分を醸かもし出す。これは日本人が毎年元気になれる一要因とてよいであろう。

近年、外見的なハード・パワー(経済力・軍事力など)だけでなく、むしろ内面的なソフト・パワー(理想・智恵など)こそ重要だといわれる(米国ハーバード大学ジョセフ・ナイ教授のソフト・パワー論)。確かに、人も国もソフト・パワーが豊かであれば、信頼され尊敬されよう。

そのような日本のソフト・パワーは、いろいろな形で随所に散在する。このシリーズでは、毎号それらを拾いあげ、お互いに自信をもって生きるパワー・アップの一助になれば、と念じている。

連載:「日本のソフトパワー」(隔月刊『装道』掲載) / 所  功

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