皇居勤労奉仕(平成29年12月11日~14日)で
天皇皇后両陛下および皇太子殿下に御会釈を賜って
「日本の文化を学ぶ会」A班 橋 本 秀 雄
皇居勤労奉仕の目的は天皇陛下に直接お目にかかり御言葉を賜ることではないが、やはり誰しも大きな期待をもっている。ただ、陛下(皇太子殿下も)は御公務の関係でお見えにならないこともある。幸い今回は、陛下からも殿下からも御会釈を賜ることができた。ここでは御会釈での体験について報告したい。
宮内庁によりきめられた日程では、4日間のうち1日は赤坂御用地となっており、私どもの団は2日目(12月12日)に皇太子殿下の御会釈を賜ることとなった。
御用地での午後の作業を終えた2時頃、皇宮警察による検査を受けてから東宮御所に向かった。5分ほどで御所の大広間に到着し、団ごとに4列縦隊でコの字型に並んだ。私どもの団は2番目でちょうど皇太子殿下と正対する位置についた。最初に女性職員から御会釈の段取りについて説明があり、30分近く床に座ってお出ましを待った。 やがて扉が開かれ、殿下が入ってこられた。緊張の一瞬である。殿下は背筋をぴんと伸ばされ、穏やかな笑顔で一礼をされた。
その後、第一グルーブの団長から挨拶を受けられると、何か質問をされた。短いやりとりの後、我がグループの番になり、団長の直ぐ前に立たれた。ちょうど私の目の前2㍍ほどのところで、団長の肩越しに殿下のお顔が見えた。 団長が一礼して「日本の文化に学ぶ会51名でまいりました」と申し上げたところ、殿下から「どんな事を学んでおられますか」と尋ねられた。そこで団長が「日本の古典を学習しております」とお答えすると、<これからも励んでください>という趣旨のことを言われ、最後に「どうか元気に過ごしてください」と締めくくられた。一同礼をし、次の団に行かれるものと思われたが、そこでハプニングが起きた。
殿下は団長の直ぐ後ろ横で頭をさげていた所教授を見つけられるや、その前にさっと進まれて「所先生、お久しぶりです」と仰ったのである。思わぬ殿下の行動に一同「ほーっ」と驚きの声を発した。所教授も咄嗟のことで驚いたのであろう、何かをつぶやいた。殿下はその間、本当に懐かしそうに、もう少し話をしたいという表情で一礼をされ、隣の団の方へ進まれた。
後で所教授に殿下に会われたのは何時か尋ねると、直接お目にかかったのは平成14年の秋の園遊会に招待された時で、やはり御言葉をかけていただいたとの由。既に15年も前のことになる。多くの参奉仕者の中の一人に「久しぶりです」との御言葉をかけられたのは、テレビや著書でも間接的に接しておられたからではないかと思われた。
全部の団に御会釈を賜ると、全員による万歳三唱で締めくくられた。音頭をとったのは我が野崎団長である。剣道で鍛えた声でしっかりと「皇太子殿下」と発声したが、感動をおさえられなかったのであろう、声をふるわせて「萬歳」と言った。その途端、みんな声を限りで三唱したが、私も団長と同じように、声がつまってしまった。
一方、天皇皇后両陛下の御会釈は3日目の午前10時10分からであった。1時間ほど前に会場の蓮池参集所へ向かった。この日も快晴であったが、朝の空気は冷たく、着ぶくれするほど着てちょうどよいくらいであった。参集所ではやはり皇宮警察官による身体検査が行われ、東宮御所と同様にコの字型に4列縦隊で並んだ。今度はやや広いため中心に立たれる陛下から右手の角に立った。皇太子殿下の時には背の高さが考慮されていなかったため、後ろに立った背の低い人がお顔を十分に見えなかったらしい。今回は4人が背の順になるように並んだ。 ここでも。まず男性職員が御会釈の流れを説明し、その人が陛下の替わりとなって、全部の団長の前に立って、団ごとに拝礼の練習をしていった。
やがてお車が到着し、職員が入口に立って礼をするなか、お車のドアが開くと皇后様が出られ、ついで陛下が出てこられた。一同背筋を伸ばして緊張した。
第一グループの団長の前に立たれて、団の紹介を受けられた。ところが陛下はよく聞きとられなかったようで身を乗り出して再度尋ねられた。事前の説明で陛下は少しお耳が遠くなっておられるとの注意をうけていたが、年輩の団長さんとしては、やはり陛下の真ん前で大声を出すのをはばかられたのであろう。しかし、陛下のお側にぴったりとつかれた皇后さまが、陛下に小声で説明された。そこで、陛下から御下問があり、そのお声はしっかりと聞こえた。遠くまでひびく清らかなお声である。
やがて第二グループの我が団長の前に両陛下が立たれた。一同で拝礼して、団長が団の紹介をしたところ、陛下から団の活動について尋ねられたので、古典の勉強をしていますとお答え申し上げた。すると意外にも「どなたが指導をされていますか」と御下問があったのである。咄嗟に団長が「今回団員として参上している京都産業大学の所功名誉教授であります」とお答えしたところ、陛下は団員の方を見られ、右端の2列目にいた所教授の方に少し歩まれ、にこやかに目で挨拶をされた。陛下からのお言葉は聞こえなかったが、すぐ脇に近づかれた皇后陛下が「奉仕作業まで来ていただいて・・・」と仰った。私の位置から教授の様子は見えなかった。後で聞くと、やはり恐縮して頭を下げたまま感激していたそうである。この時も思わぬ両陛下の行動と御言葉に一同びっくりするとともに、それまでの緊張した雰囲気が急にやわらいだ。このハプニングが両陛下と団員の気持ちを
一気に近づける瞬間ともなった。
天皇陛下と皇后陛下は、どの奉仕団に対しても団長のすぐ傍に立たれ、団のことを尋ねられて団長の言葉をにこやかにうなずきながらお聞きになり、さりげない励ましの言葉を賜った。それもお二人の絶妙のコンビネーションで進められ、緊張の中にもあたたかな空気が醸された。
最後は5度目の奉仕団を引率された年輩の団長が音頭を取り、心の底から万歳を三唱した。この時も皆で声をかぎりに万歳をとなえることができ、晴れ晴れとして嬉しかった。
両陛下はお車に乗られ、窓ガラスを全開して、中からお手を振られた。外は相変わらずの冷気である。両陛下は外套などを着ておられない。私どももも参集所のガラス窓に張り付いて一生懸命に手を振りながら、お見送りすることができた。 (平成29年12月20日記)