「読売新聞」は11月24日朝刊の一面トップで「皇族女子 結婚後に特別職/「皇女」創設 政府検討」という大見出を打ち、「政府は……結婚後の皇族女子を特別職の国家公務員と位置づけ……「皇女」という新たな呼称を贈る案が有力視されている」と報じた(他紙も同趣)。
しかし、「皇女」は歴史上も現行法でも、天皇のもとに生まれた女子のみを指す。千三百年前(七二〇)勅撰の『日本書紀』は、天皇の男子を「皇子」、天皇の女子を「皇女」と記す例が多い。『大宝(養老)令』の「継嗣令」では、「およそ皇兄弟(天皇の兄弟)、皇子(天皇の男子)は、皆親王となす」と定めるが、この兄弟は姉妹、皇子は皇女(天皇の女子)、親王は内親王も含むと解されている(飛鳥木簡に、天武天皇の女子大来内親王を「大伯皇子」と記す)。
一方、明治の「皇室典範」に準拠した昭和戦後の現行典範でも、第六条に「嫡出の皇子及び……皇孫は、男は親王、女を内親王とし、三世(曽孫)以下……の子孫は、男を王、女を女王とする」と定めるから、天皇の嫡子を皇子、嫡孫を皇孫とし、その男子を親王、その女子を内親王としており、一般に前者(天皇の男子)が皇子、後者(天皇の女子)が皇女と称されている。
つまり、「皇族女子」(皇室で生まれ育った未婚女子)の中、皇女子と皇孫女(皇男子の女子)を「内親王」、それ以下の女子を「女王」と称する。従って、記事にいう「結婚後の皇族女子」(内親王も女王も含む)すべてに「“皇女”という新たな呼称を贈る」というような皇室用語の乱用は、不適切であって、厳に慎んで頂きたい。
ちなみに、明治典範以前は、皇室を離れた方も親王とか皇女と呼称できた。しかし、その場合でも、「皇女」は和宮のごとく天皇の女子に限られる(今上陛下のもとでは、敬宮愛子内親王のみであって、皇嗣殿下の眞子・佳子両内親王は皇女と称されない)。
現行典範の続く限り、皇族女子は結婚により皇籍を離れたら一般国民になるほかないが、皇室の公務を分担する必要がある場合の呼称は「元内親王」とか「元女王」でよい。また、その位置づけは、官僚の上司に雇用される形の国家公務員でなく、天皇に直属して奉仕する内廷職員とされる方がふさわしいと思われる。