新設宮家も現存宮家と同一要件で



 新設宮家も現存宮家と同一要件で

(京都産業大学名誉教授)所  功

戦後の皇室制度は、新「日本国憲法」の原則に従う法律として定められた「皇室典範」(現典範)と「皇室経済法」(経済法)などに則っている。それは可能な限り維持しなければならないが、もし無理な規定で不都合を生じているなら、合理的な修正を加えるのが当然であろう。

そのうち「先延ばしできない重要な課題」の改革案として、政府の有識者会議から提示されている「皇族数確保の具体的方策」の一つは、「内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を維持すること」である。

これに近い案は、私も二十年程前から提唱してきたから、大筋に賛意を表するが、一部に疑問を感じている。それは「(皇族女子の)配偶者とその子は皇族という特別の身分を有せず、一般国民としての権利・義務を保持し続けるものとすることが考えられる」と指摘している点である。

そこで、あらためて現存する皇族男子当主の宮家の在り方を確認すると共に、これから新設されることになる皇族女子当主の宮家の在り方を考察した。より的確で有効な「皇族数確保」を実現するため、理解と合意を形成する参考にしていただきたい。

現存する皇族男子当主の宮家

「宮家」というのは、天皇を当主とする「内廷」を「本家」と見なす場合の「分家」にあたる。その在り方(資格・役割)に関する主な規定は、左の通りである。

㋑現典範5条・・・「皇族」の範囲と区別は、「皇后・太皇太后・皇太后、親王・親王妃、内親王、王・王妃、及び女王」である。

㋺現典範6条・・・そのうち「嫡出(后妃から生まれた嫡子)の皇子(皇女を含む)及び嫡男系嫡出の皇孫(男・女とも)は、「男を親王、女を内親王とし、三世(天皇の曽孫)以下の・・・男を王、女を女王とする。」

㋩現典範15条・・・「皇族以外の者及びその子孫(一般国民)は、女子が皇后となる場合、及び皇族男子(親王・王)と婚姻する場合を除いては、皇族となることはない。」、つまり「婚姻する場合」のみ「皇族(皇后・親王妃・王妃)となる。

㋥経済法6条「皇族費は、皇族としての品位保持の資に充てるために、年額により毎年支出するもの、・・・及び皇族(親王・王)が初めて独立の生計を営む(宮家を立てる)際に一時金額により支出するもの・・・とする。」

すなわち、現行法で宮家を立てることができるのは、㋑㋺嫡出の皇族男子として生まれた親王(天皇の男子と男孫)と王(天皇の曽孫以下)であり、㋩㋥その皇族男子の配偶者(后妃)は、一般国民出身者も皇族となるから、その間の子孫も皇族であり、宮家の全員で「皇族として品位保持」(公務分担も含む)に努める。しかも、現典範の1条・2条により、后妃は皇位継承の資格を有しないが、その男子孫は資格を有する。

新設される皇族女子当主の宮家

これが現存宮家の存立要件だとすれば、その当主を皇族男子に限定してきた従来の在り方に基づいて、皇族女子を当主とすることも可能にする今後の在り方は、原則として同一の要件を満たせるようにすべきだと思われる。

この点に関して、当主のみが皇族で、入夫も子女も国民の身分というような在り方は、不自然であり不適切といわざるをえない。もしも入夫と子女を「皇族という特別の身分」にしなければ、「皇族としての品位保持の資に充てるため」の「皇族費」は支給されない。それゆえ、宮家当主の公務を手伝っても、おそらく宮内庁(非常勤)職員並みの給与を受けることしかできない。それで足りなければ、利害の絡む民間の職場から「特別顧問」とか「名誉総裁」などの名目で収入を得ることになるかもしれない(それを法的に制約したり阻止することはできない)。しかしながら、そのような在り方が皇室(宮家)の一員としてふさわしいとは考え難い。

一般の家庭でも、オーソドックスに夫婦とその子女が同姓(同氏)であることをよしとするような立場の人々ならば、まして新設宮家では、皇族女子の当主と同様に、入夫も子女も同じく皇籍にあることが当然と考えてこそ、首尾一貫することになろう。

これから新設される皇族女子を当主とする宮家に入る配偶者は、一般国民出身者でも皇族となれるが、皇位継承の資格を有しない。ただ、将来の課題として、皇族女子宮家当主の子孫である皇族は、皇族男子当主宮家の子孫と同様(その男系男子を優先すれば、皇族女子系子孫の順位は著しく後になり、実現する可能性は極めて少いが)、皇位継承の資格を有するとしておくことが自然だと考えられる。

もちろん、皇位継承の資格は、現典範で「皇統に属する男系の男子」に限定されているから、その原則に例外を認めることになる。しかし、この「男系男子」原則は、明治の旧典範から明文化されたことであり(それ以前には規制がない)、すでに無理な状況を迎えているのであるから、万一に備えて例外を設ける必要があることは、皇室の永続を願う良識ある人々ならば理解されるに違いないと思われる。

(令和六年三月春分の日発信)

※令和6年3月25日 参考の略系図をアップロードしました。添付資料からダウンロードしてください。

※※同3月27日 略系図の一部を修正しました。

添付資料

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