『皇室事典』も活用して頂きたい
京都産業大学名誉教授 所 功
何事であれ、どのような意見・主張をするにしても、可能な限り正確な知識・根拠に基づくことが望まれる。とりわけ日本人にとって重要な皇室に関する議論には、その努力が求められる。
高橋紘氏との出会いと共同作業
かく言う私は、高校生時代に稲川誠一という若い教諭の感化を受けて以来、皇室に関心をもち、折に触れ勉学を続けてきた。その上で自分なりの皇室論を著書や論文で積極的に発表するようなことになったのは、生年月日が全く同じ高橋紘(ひろし)氏との出会いによる。
同氏は東京生まれで、早大を卒業して共同通信の社会部宮内記者となり、現代皇室の研究を始めた。その成果を盛り込んだ『象徴天皇』(岩波新書 昭和六十二年)に私が感想を寄せたことが縁となって交流を始めた。おかげで、昭和天皇の晩年、ご学友で侍従次長・掌典長を務めた永積寅彦(ながづみとらひこ)氏を二人で十数回訪ね、幼少期からの皇太子・天皇に関する具体的な実話を詳しく承ることができた。
こうして親友になった高橋氏は、平成十年(一九九八)十月スタートの文春新書第一冊として『皇位継承』を引き受けた。その際、前半(古代から明治まで)の分担執筆を求められた私は、過分な大役ながら、この機会に皇室の歴史と制度を本格的に勉強することができたのである。
正確で平明な『皇室事典』の共編
そのころ、かねてから夢見ていた『皇室事典』を編纂したい、と話したところ、高橋氏は「よしやろう」と直ちに賛同するのみならず、有力な出版社も探してくれた。
そこで、皇室制度史の研究者として実績のある米田雄介氏(宮内庁書陵部編修課長から正倉院事務所長など歴任)に協力を求めたところ、幸い快諾されると共に、分担執筆者として元宮内庁同僚で近代史専門家の西川誠氏を推薦された。また高橋氏からは現代史料を共同研究中の小田部雄次氏、さらに私から平安時代の「三代御記」逸文研究会を一緒に続けてきた竹居明男氏と、中世近世の文化史に明るい五島邦治氏を分担執筆者に頼み、あわせて皇室祭祀に精通する橋本富太郎氏に基礎資料の収集と整理を引き受けてもらった。
そこに角川書店(当時角川学芸出版)の編集者も加わり、ほぼ毎月会合して各自の原稿をみんなで検討して精度を高めた。その結果、御即位二十年の平成二十一年(二〇〇九)春、共編著『皇室事典』(A5判七五〇頁)を完成することができたのである。
本書は「皇室の伝統(歴史)と文化を・・・総合的に俯瞰(ふかん)できる便利で充実した事典」を目指し、正確で平明な記述を心掛けた。幸い各界の専門家や一般読者から好評えて、十年後(二〇一九)に文庫版(二冊分)と新「令和版」も出版された。
現在進行中の「皇族数の確保」論議を深めるためにも、より多くの方々に本書を活用して頂きたい。ご参考までに、その一部を二項目抽出し添付しておこう。
(令和元年六月九日、今上陛下御成婚三十一年記念日記)
資料「近現代の宮家皇族」Epson_20240615155847