「皇嗣」は称号に非ず、歴史的には「皇太弟」



                                    所 功

昨日夕のテレビ・新聞報道によれば、政府の有識者会議において、

今上陛下御譲位後の秋篠宮殿下の呼称として「皇嗣殿下」とする方向で意見が一致し、この案を軸に政府は検討を進めるという。しかし、これは前回の新造語「上皇后」と同様に、称号として適切ではないと思われる。

周知のとおり「皇嗣」という用語は、現行の皇室典範第四条に「天皇が崩じたときは、皇嗣が直ちに即位する」、第八条に「皇嗣たる皇子を皇太子といい、皇太子のないときは、皇嗣たる皇孫を皇太孫という」と規定されている。しかし、この「皇嗣」は皇位の継承者を指す普通名詞であり、「皇太子」とか「皇太孫」等の称号ではないと考えられる。

右の両条は、典範制定七十年後の現状と将来にそぐわないため、前者を原則として残しながら、特別法で「譲位」を例外として可能にする方法が整備されつつある。そうであれば、後者も本文を原則として残したまま、例外として皇嗣の定義に「皇嗣たる皇弟を皇太弟という」とか「皇位継承者順位第一の皇族を皇太子と称する」等とすればよいのではないかと思われる。

前回も記した通り、皇室用語はできるだけ歴史上使われたものを受け継ぐことが望ましい。皇嗣の称号(公称)としては、管見の限り「皇太子」(皇子に限らない)か「皇太弟」、別称として「東宮」「春宮」「儲君」「儲弐」等がある。従って、一般には「皇太弟」がわかりやすく、その場合でも職員は「東宮職」、御料は「東宮御料」でよいとみられる。

これらのことは、宮内庁編『皇室制度史料』などを参照すれば明白なことである。それを無視して新造語を公称とするなら、将来に禍根を残すことになりはしないか。政府では、法案作成までにぜひ再検討して頂きたい。

                          (平成29 年4月14日朝)

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