皇后陛下が満八十歳を迎えられた十月二十日、「産経新聞」朝刊を見てビックリ仰天した。一面トップに「女性皇族、ご結婚後も/民間人として皇室活動」「政府方針 典範改正せず、閣議決定で」との大見出しを打ち、六段抜きの記事が載っていたからである。
これが一般読者に説得力をもちやすいのは、まず「政府が・・・方針を固めた」と断定的に書き始め、ついで「政府関係者によると・・・宮内庁が・・・内親王のみに限定するよう主張し、官邸はそれ以外の各宮家の女王も含めることを検討」と続けているから、すでに宮内庁と官邸で話し合った内容が「政府関係者」からマスコミに発表された、かのごとく書かれているからである。
しかし、急いで他の全国紙を調べたが、こんな記事は全く見当たらず、産経の特報(スクープ)らしく、だから一面に大書したのだろうか。ただ、同趣のネタが、かって時事通信から流された際、六月三十日、安倍内閣の菅官房長官は記者会見で、そのような報道を否定し、「皇族数の減少にどのように対応していくか、政府内で検討させている」「皇室制度に関する課題は、慎重に丁寧に対応することが大切だ」と明言されている。
従って、このスクープは、政府内にいる誰かが世論の反応を探るため、かねて皇位継承者は男系男子に限るという原理主義に近い産経から打ち上げたアドバルーンにすぎない、という有力紙記者の見方が真相に近いのかもしれない。
とはいえ、この特報記事に長文の談話を寄せている大原康男氏ほどの有識者ですら、「両陛下のご負担を減らすべく、皇籍を離脱された女性皇族の方々に活動の一部を担っていただくことは意義がある」「閣議決定で認めるということは妥当だ」と賛意を示しておられるから、同調者は決して少なくないとみられる。
しかし、天皇のお務めは、陛下ご自身(臨時に皇太子殿下)しか為しえず、それをお側で支えられるのが皇后さまであり、それ以外のことも皇族だから分担できる。そのような天皇・皇族の公的活動を、「閣議決定」という便宜的な措置で、皇籍離脱後の元「女性皇族」に担っていただくことは、法的にも現実的にも無理といわざるをえない。
たとえば、最近結婚された典子さまは、皇室(高円宮家)を出られて出雲大社宮司嫡男の千家国麻呂氏と結婚された以上、嫁ぎ先のために夫人として全力を尽くされることが、必要かつ当然であろう。
もちろん、そのような方々が元皇族として民間の儀式や行事に招かれ、お言葉を述べられたりすることは、従来からあり今後も大いに行われたらよい。しかし、それは皇族身分の方々による公的ご活動と別次元の私的活動にほかならない。
いま熟慮すべきは、菅長官のいわれるとおり「皇族数の減少にどのように対応していくか」の具体策である。それは決して容易なことでないが、管見は別稿「皇室永続に向けて」添付資料(日本学協会『日本』八月号、私共のHp”かんせいPLAZA”に転載)を参照して頂けたら幸いである。
(十月二十日夜)