本日到着の「神社新報」(平成二十七年三月十六日号)によれば、「日本会議国会議員懇談会」が三月四日「女性皇族の方々にご結婚後も『皇室活動』を継続して頂くための方策に関する要望書」を首相官邸に提出したという。
その要点は、まず①昨秋、高円宮家の次女典子さまが出雲の千家国麿氏と結婚されたことで「皇室にご結婚を控えられた女性皇族が多数おられることが国民に広く認識される契機ともなり」、また②昨年末、秋篠宮家の次女佳子内親王が満二十歳を迎えられて以来「成年皇族として責務を果たしていくお気持ちを述べられ・・・ご公務に臨まれて」いる、という事実を指摘する。
ついで③同懇談会としては「男系による万世一系の皇位継承の伝統を踏まえた盤石なる皇室制度が確立されることを目指し・・・検討を進めて」きたこと、また④「一部の報道機関が、女性皇族がご結婚により皇籍を離脱されてからも『皇室のご活動』の継続を可能とする新たな方策を『閣議決定』で行うと報じ」た、という経緯を説明する。
その上で、⑤「女性皇族方による、皇室と国民の絆を深め、我が国と諸外国との友好親善に資する諸活動を、ご結婚後も従来どおりに行われるよう、皇室制度の整備を早急に図るよう要望する」と称しながら、より具体的に⑥「女性皇族の方々が、ご結婚により皇室を離脱されて民間人の立場となられてからも『皇室のご活動』の継続を可能とする方策をはかる」ことを政府に要望している。
これを一般の方々は、どう理解されるだろうか。この問題に以前から関心をもつ私は、自分の意見を一たん慮外に置いて何度も読み返したが、甚だ不可思議といわざるをえない。勿論、同会の方々が皇室の弥栄を強く念願しておられることは、信じて疑わない。それゆえに、このような認識と方策で本当に宜しいのか、率直に再考して頂きたい。
まず①と②は、事実この通りである。また③も、「男系による万世一系の皇位継承」が神武天皇以来の実績だから、この貴重な慣例(伝統)を可能な限り踏まえて「磐石なる皇室制度が確立されること」は、我が国にとって最重要課題であり、その検討を進めて来られた日本会議の関係者には敬意を表する。
しかし、④にいう「一部の報道機関」とは、昨年十月二十日朝刊の一面トップに「女性皇族、ご結婚後も/民間人として皇室活動」「政府方針、典籍改正せず 閣議決定で」という大見出しの記事を載せた産経新聞であろう。ところが、すでに六月三十日、同趣のネタが時事通信から流れた際もこの時も、現安倍内閣の菅官房長官は、そのような報道を否定しており、今回も同日午後の定例記者会見で「皇族数の減少については、しっかりと対応すべきであるという問題意識をもってゐる」(神社新報一面記事)と明確に述べている。
この菅長官により示された「皇族数の減少……対策」こそ、現実的な喫緊の課題なのである。それは申すまでもなく、現在八十歳を越された両陛下の御子孫として生まれ育たれた皇族男子は、皇太子(55歳)・秋篠宮(49歳)・悠仁親王(8歳)の三殿下しかおられない。それに対して、未婚の皇族女子は七方(内親王三方・女王四方)おられるが、近い将来一般男子と次々結婚されたら、⑥でも判っているとおり「皇籍を離脱されて民間人の立場となられて」しまうほかない。
そこで、その対応策として示されたのが⑤⑥である。このうち、⑤の表現を私流に補って解すれば、「女性皇族(正しくは皇族として生まれ育たれた女子)による……諸活動を、ご結婚後も(皇族の身分に留まって)従来どおりに行われるよう、皇室制度の整備(皇室典範第十二条の改正)を早急に図る」必要があることになろう。ところが、⑥の要望(結論)は、「女性皇族の方々が……民間人の立場となられ」ること、つまり「皇族数の減少」という深刻な事態を表に出さないで、“元皇族”の民間人が「皇室のご活動」の継続を可能とする、というに留まる。これでは③の「盤石なる皇室制度が確立される」ことに到底なりえないであろう。
ただし、私も“元皇族”の方々が皇室のために奉賛活動をされる機会が今以上にふえることは有意義だと考えている。現に紀宮清子内親王は、平成十七年に黒田清子さまとなられてからも、皇居の自然(鳥類など)調査に協力され、また一昨年の伊勢神宮における式年遷宮では御高齢の祭主池田厚子さま(昭和天皇第四皇女)を助けて臨時祭主の大任を果たし、さらに国賓・公賓などを歓迎するような席でも国際親善に努めておられる。
とはいえ、ふつう結婚すれば、その相手方(人・家)のために主力を注ぐのが、むしろ常識であろう。現に京都の裏千家へ入られた容子さま(三笠宮家次女)は、第十六代宗匠千宗室夫人として大きな働きをされている。また出雲の国造家継嗣に嫁された典子さまの場合も、出雲大社の次代宮司夫人として積極的に活躍されつつある。
従って、そのような離籍皇族も、可能な限り皇室のために奉賛活動をして頂けることはありがたいが、決して無理にならないよう、配慮する必要があろう。それにも拘らず、「皇族数の減少」傾向を放置して、皇室を出られた方々に「民間人の立場」で「皇室のご活動の継続を可能とする方策」を制度化すれば、過重な負担を強いることになりかねない。
では、「皇族数の減少」をくいとめるために何をすべきであろうか。私見は既に著書や論文で詳述してきたので、結論だけ端的に申せば、現行典範のもとで皇位を継承されうる「男系の男子」は、幸い三方ご健在なのであるから、「男系による万世一系の皇位継承」が三代先まで続きうることを前提(共通理解)として、今なすべきことは、皇族女子が一般男子と結婚されても皇族として皇室に留まりうるよう、典範第十二条のみを改正することであり、それによって「皇室のご活動」を末永く分担して頂ける道を開くことが、不可欠であり現実的な対応策だと考えている。
なお、今回の要望書には触れられていないが、日本会議の論客は「皇族数の減少」対策として、被占拠下で臣籍降下を余儀なくされた元皇族とその子孫(男子)が皇族となられることを最善策のように言ってこられた。それに対して私は、日本が「君民一体」である基本要因として「君臣の義(区別・秩序)」の厳守を重視するがゆえに、この策には賛同し得ない。しかも、現行憲法のもとでは、昭和二十二年十月以降に「民間人」として生まれた元皇族の子孫を皇族の身分に変更しうる論拠は見出し難い。
それでもなお、このような案を主張する人々は、どんな方々をどういう方法で皇族とすることが可能か(たとえば明治天皇の四内親王が降嫁された四宮家の後継者ならば優先できるか否か)、具体的に提示してほしいものである。
(三月十六日記)