(67)今上陛下「生前退位のご意向」報道に因んで



その第一報は、小田原にいる娘からのLINEで知った。当日(七月十三日)、普段は柏市のモラロジー研究所に出るべきところ(原則として毎週水曜)、朝早くから家内と共に東京にいた。

まず午前十時ころ、「みたま祭」の始まった靖国神社に着き、昇殿参拝をさせて頂いた。ついで正午ころから上野の森美術館で開催中の「ブータン」特別展をゆっくり見学した後、西新宿にある麗澤大学東京研究センターへ赴き、夕方四時半から六時まで、月例の「後桜町女帝宸記研究会」で宍戸忠男講師を中心に原本の解読。さらに六時半から八時までの予定で、同じく月例の「村上天皇御記研究会」において逸文の講読をしていた。

その最中、七時一〇分ころ携帯ガラホのLINEに「天皇陛下が、生前退位のご意向ってニュース飛び込んでいるけど、これ大事なことでしょ」との文字を見て、まさにビックリ仰天。すると間もなく、新聞社やテレビ局などから矢継ぎ早に電話やメールが入り、研究会を中断するほかなくなった。そして一時間近く当面の対応に追われ、小田急の新宿九時発に乗ったところ、NHKの方から電話があり、何とか局に来てほしいという。

そこで、やむなく町田から引き返し、かつて昭和の終り(改元準備)から平成の初め(大喪・即位礼・皇太子御成婚など)に何十回も通った渋谷のNHKに十時半ころ着き、あらためてスクープの詳細な説明を受けた。その道中「七時の速報は本当に陛下の御意向か」一抹の不安を抱いていたが、担当者の説明を聴いて、ほぼ間違いないと信ずるに至った。

それにしても、事はきわめて重大である。今上陛下が皇太子時代から父帝に学ばれ、践祚以来まさに真心こめ全力で実践して来られた「象徴天皇」の在り方は、今や多くの国民が敬仰し感謝している。その陛下は、四年前に心臓の手術をされ八十歳代に入られても御公務に精励されるが、それを今後とも続けていけるか不安を感じられ、御身内の皇后さま・皇太子さま・秋篠宮さまと相談されて、熟慮決断された「御意向」であろうと拝察される。

ただ、その御意向を実現するには、「皇室典範」(法律)などを改正し、さまざまな移行の措置をとらなければならないが、それに伴って新しい課題も生ずるのではないか。そんなことを想いながら、どのようにコメントしたらよいのか考えた上で、いくつかの質問に答えた。その冒頭で述べた左の所感のみが、翌十四日朝七時代に放映された。

「近現代の皇室制度は、明治時代(二十二年)の皇室典範により形作られ、それが戦後(昭和二十二年)の現行典範に引き継がれています。しかし、当時は予見できなかった高齢化・長寿化が急速に進行しており、現実にあわない制度の改革(典範の改正)はしなければなりません。とはいえ、どんな改革もプラスとマイナスがありますから、それをしっかり調べ確かめて、よりベターな結論を出せるよう努力することが望まれます。」

その後数日、海外(英・米・豪)メディアも含めて二十数社から多様な取材があり、それに可能な限り応えながら今朝に至った。ちなみに、明二十一日(木)夜八時からBSフジのプライムニュース座談会(山内昌之東大名誉教授らと)に出演、また明後二十二日(金)午後、大阪の読売テレビで二十四日放送予定の「そこまで言って委員会NP」収録にゲスト出演などが続く。その間に、関係方面と情報交換しながら、私なりに考えたことは、後日改めてこのHPに記す。

なお、かなり詳しいインタビュー記事が、『日経新聞』と『京都新聞』の十四日朝刊、および「読売新聞」と「毎日新聞」の十五日朝刊に掲載された。後者の要点は、現行典範で常設されている「皇室会議」が、退位問題・改正原案を論議して政府に進言するような機能を発揮する必要があると提案した。参照して頂けたらありがたい。

(HPかんせいPLAZA、平成二十八年七月二十日早朝)

 

【「しっかり議論して進めるべき」日経新聞 七月十四日朝刊】
生前退位については以前から宮内庁の検討事項として上がっていたと思うが、陛下ご自身が強い意思を示されたとしたら驚きだ。退位後の身分も決まっていないため、皇室典範や皇室経済法の改正など準備に数年はかかるだろう。退位という仕組みは歴史的にプラス面もマイナス面もあるので、しっかり議論して進めるべきだ。 政府や国会は、十数年前から女性・女系天皇の容認など皇室典範改正について議論をしながら、先送りしてきた。陛下が高齢になれば公務がご負担になるのはわかりきっていたこと。もっと問題を直視すべきだった。陛下自身もこのままでは皇位継承が行き詰まるという危機感を持ち、公務を続けられる中で、問題提起に至ったのではないか。

 

【「皇室会議の場で議論を」毎日新聞 七月十五日朝刊】
天皇陛下は、憲法に定められた国事行為と国の象徴にふさわしい公的行為、皇室の伝統である宮中祭祀(さいし)の三つを全て1人でこなす必要があると考えておられる。これまで一生懸命やってこられたが、5年先、10年先まで続けられるか心配が出てきた。将来の皇位継承を念頭に、天皇の務めを果たせる状況を作ろうとしておられるのだろう。

時代は、かつて想像もしなかった長命社会である。仮に20年後に現在の皇太子さまが皇位を継承するとすれば、70代半ばで次のことを考えなければならないという、難しい問題が生じる。陛下としては、やはり今、皇室のあり方を考えておかないといけない、ということで、いわばボールを投げられた。政府や国会、国民はそのボールをキャッチし、象徴天皇制の健全な機能を存続、維持させるため、皇室典範の見直しにつなげられるかが問われている。

生前退位は、過去に皇位継承をめぐり争いがあったことから明治の皇室典範で廃止された。これは賢明な選択だったが、当時は今のような高齢化、長寿化社会を迎えるとは予想できなかった。まして今の天皇は象徴であり、政治とは距離を置いておられる。生前退位となっても争いが起きる懸念はない。

生前退位の時期については、日本人男性の平均寿命の80歳をメドにするなど、いろいろな考え方がある。あるいは「定年制」をつくっておくのも一案だろう。しかし、あまり細かく決めすぎると逆に身動きが取れなくなる。柔軟に運用できるようにしておいたほうがよいと思われる。

天皇の終身在位見直しの次の課題としては、女性の皇族が結婚後も宮家の後継者として残れるようにし、さらに皇族間の養子を可能にすることが挙げられる。

一方、男系男子に限定されている皇位継承者は、現に該当者がおられることから変更しなくてもよい。当面必要なことをやり、新たな状況で10年くらいたったら、また次の改正を検討する。このようにステップを踏んでいくことが重要だと思う。

皇室典範改正をめぐっては、小泉内閣が私的諮問機関として有識者会議を発足させたが、うまくいかなかった。有識者会議方式は多様な意見を寄せ集めるもので、統一見解を出すのが難しい。しかも多数決で仕切れる問題ではない。

皇室のあり方にかかわる重大事項は、皇室典範に定められた皇室会議で議論すべきだ。皇室会議のメンバー10人には、皇族2人をはじめ立法、行政、司法の三権代表が含まれる。このうち衆参両院の副議長は野党から選出されており、国民の意見を代表する人たちが全て入っている。陛下の意向を受けて、皇室会議がこの1〜2年の間に、今生じている問題点と今後予想される問題点をしっかり議論して、ベストまたはベターな意見を政府に進言し、政府から国会に法案が提出されたら、速やかに成立させるのが望ましい。

皇室会議はこれまで形式的なことを追認するだけだったが、本来の機能を果たせるようにすることが大事だ。

 【聞き手・田中洋之】

添付資料

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