日本のソフトパワー/第13回 サミット構成国の国号と国旗・国歌



いわゆるサミット(主要国首脳会議)が、今年五月下旬、伊勢志摩で開催される。二百近い世界各国のうち、政治的・経済的な価値観を共有する先進国として、米・英・仏・独・伊と日本の六カ国グループ首脳がパリ郊外で初会合したのは、一九七五(昭和五十)年だから、今回で四十二回目になる。

その間、第二回目からカナダが参加してG7となり、第二十四回からロシアも加えてG8となった(前々回から不参加)が、人口の多いインド(ヒンズー教国)や中国(共産主義国)やイスラム諸国などは入っていない。しかし、世界の大多数が加盟する国際連合が、利害の対立などで十分機能しない現在、これらG7(ないしG8)の担う責任は重い。

しかも、そこに最初から我が国が、欧米以外で唯一の構成メンバーとなり、相応の役割を果たしてきた国際的な意味は大きいといえよう。そこで、この機会に全く初歩的なことながら、これらG8を構成する国々での国名と国旗・国歌について、各々の由来を確認しておこう。

欧州の英・仏・独・伊と今回不参加の露
まず英の正式国名は、the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland 連合王国〘略 the U.K.〙。そのグレイト・ブリテン島は、イングランド(ウェールズも含む)とスコットランドからなり、北隣に北アイルランドがある。

一般にUnion Jackと称される国旗も、イングランドの白地に赤の十字と、スコットランドの青地に白い斜めの十字と、アイルランドの白地に赤い斜めの十字を組み合わせたデザインが、一八〇一年に出来ている。
このようにキリスト教を共通基盤としながら、それゆえに新旧両派の対立も烈しかった三地域を纏めているのが王室である。その国歌も、一七四〇年ころHenry Careyの作詞したGod Save the King(or Queen)が用いられている。

ついで仏の正式国名はRépublique française フランスは中世のフランク王国に由来する。しかし、一七八九年の革命によって共和制となり(一時王政復活)、その国旗は、パリ市民軍の標章の、青・赤に白を加えた「縦三色旗」(左の青が〝自由〟、中の白が〝平等〟、右の赤が〝友愛〟を表すという)である。また国歌も、マルセイユ義勇兵の革命行進歌が用いられている。

つぎに独の正式国名はBundesrepublik Deutschland連邦共和国。ドイツはゲルマン語で大衆を意味し、英語表記Germany はゲルマニア(ゲルマン人の地)に由来する。一九一八年の革命により帝政から共和政となったが、「横三色」の国旗は、一八一三年ナポレオン軍に対抗した義勇軍の学生服に由来し、上の黒が〝名誉〟、中の赤が〝自由〟、下の金が〝祖国〟を表すという。また国歌も、一七九七年ハイドンJoseph Haydnが神聖ローマ皇帝に捧げた曲に、一八四一年ファラースレーベンFallerslebenが詞を付けた。一九九〇年東西ドイツ統一後は、その三番の歌詞のみが使われている。

さらに伊の正式国名はRepubblica Italiana イタリアは古ラテン語の「子牛の土地」に由来するという。一九四五年、共和制になったが、左緑・中白・右赤の縦三色旗は、十九世紀から諸王国で使われ(中央の白に王家の紋を入れ)ていた。また国歌も、王政時代にマメーリGoffredo Mameli が作詞、ヴェルディGiuseppe Verdiの編曲したものが使われている。

なお、旧共産主義のソヴィエト連邦を解体して再生した露の正式国名は英語表記で Russian Federation ロシアは北西部ベラルーシのルーシに由来するという。その国旗は、白・青・赤の横三色旗で一六六八年に初めて定められ、一九一七年革命以来のソ連が崩壊した後、一九九九年に復活した。しかし、国歌は一九四四年アレクサンドロフAlexander Alexandrov作曲のソ連国歌にミハルコフSergei Vladimirovich が新しい歌詞を付け、二〇〇一年から公用されている。

北米の合衆国・カナダと東亜の日本
以上の欧州五カ国より遥かに国土が広く人口も多い北米の五〇州からなる米国の正式名はUnited States of America アメリカはコロンブスより少し後に中南米を探検した伊のアメリゴ Amerigoに由来する。北米大陸に欧州から移民した人々が英国から独立するため戦った最中の一七七七年、当時十三の州を表すため、横縞の赤い七本線と白い六本線および左上の青地に白い十三の星(現在五〇)をデザインして掲げた旗が the Stars and Stripes(星条旗)である。また、一七八〇年ジョン・スミス J. Smithが作曲し、フランシス・キー F. Keyが作詞した軍歌The Star-Spangled Banner(星条旗よ永遠なれ)が、やがて一九三一年から国歌とされている。

ついで北隣の加は、正式名称もCanada カナダは河流域の村落を意味するkanataに由来するという。英仏の植民地から独立を進めて、一九八二年主権国家となったが、大英連邦に属する立憲君主国である。その国旗は、縦縞の左と右が赤、中央の白に赤いカエデを描くのでThe Maple Leaf Flagとも呼ばれる。また国歌は、一八八〇年にできたケベック州のカリサ・ラヴァレーC. Lavallée作曲、アドルフ・ルーチエA.Routhier作詞による愛国歌が基になり、百年後正式採用されている。

最後に、わが日本のことは多言を要しないが、叙上の国々に較べると、特色が明瞭になる。まず国名は、およそ七世紀初め(遅くとも八世紀初め)成立した「日本」が、一三〇〇年以上も一貫している。それは途中に中国のような王朝の交替も、欧米のような革命もなかったからである。また国旗は、安政元(一八五四)年「日本国惣船印」として定められた「白地日の丸」が、明治三(一八七〇)年「御国旗」と決められ今に至る。さらに国歌も、平安朝(十世紀初め)『古今集』所載の古くから長寿の祝いに詠まれてきた和歌が基をなす。それに宮内省の林広守らの付けた雅楽譜を明治十三年、ドイツ人のフランツ・エッケルトFranz Eckertが編曲したもので、和洋合作の典型といえよう。

このような由緒の国号・国旗・国歌をもつ主要国の首脳が、天照大神と豊受大神を祀る神宮のある伊勢志摩で一堂に会すること自体、画期的な意義が感じられる。願わくば、目先の政治的・経済的な利害を越えて、世界の安定と向上に向けた建設的な会議が実を結ぶよう、念じてやまない。

連載:「日本のソフトパワー」(隔月刊『装道』掲載) / 所  功

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