「炭坑節」の田川を訪ねて



「炭坑節」の田川を訪ねて                                                                                   所  功
十一月十七日の午前中、京都の細見美術館に十数名が集まり、来年九月の開催を目指す「京都の御大礼ー宮廷文化のみやびー」特別展覧会の実行委員会を立ちあげた。基本計画が出来たとはいえ、これからが大変である。
その午後、新幹線で博多へ向かう。翌日の田川ロータリークラブ(RC)創立五十周年記念式典における講演をするためである(TKC出版からの依頼)。
田川といえば、かつて筑豊炭鉱が栄え、「炭坑節」発祥の地として知られる。縦坑跡地に建てられた「石炭・歴史博物館」では、六年前ユネスコ「世界記憶遺産」に登録された炭鉱夫山本作兵衛氏(明治二十五年~昭和五十九年)の記録画五八四点が展示されている。
この田川には、実は女房一家が戦後まもなく二年ほど仮寓し、糸田小学校へ通ったことがあるというので、十八日午前そこを訪ねて、意外なことに気付いた。
その校門前に立っていたところへ、ちょうど若い男の先生が出て来られ、事情を話すと、快く入れて下さった。そこで門の脇に立つ石碑を視ると、次のように記されている。

福岡県田川郡糸田尋常高等小学校
学齢児童ノ就学、及就学児童ノ出席、他ニ超越シ、校舎・校具ノ設備、亦適当ニシテ、教育訓育、成績ニ見ルベキモノアリ。依リテ大正三年、勅令第二百五十九号、教育基金令第五条ニ基キ、旌表旗ヲ授与ス。
大正九年二月十一日                              福岡県

つまり、約百年前の糸田小学校(尋常科六年・高等科二年)は、就学率も出席率も特に高いこと、校舎も校具も良く設備されていること、教育も成果をあげていることが評価され、大正三年(一九一四)の勅令と教育基金により「旌表旗」(せいひょうき)を授与されたのである。
これは当時、子供を働き手として休ませがちな炭鉱地帯で、多くの親が子供たちを学校へ通わせ、地元負担も要した校舎や校具を整え、先生方も知育と徳育に熱心であったことを示す。それゆえ、この名誉を伝えるため、まもなく作られた校歌に「田川の里の西の方/輝く旗のそのほまれ/になひて高き学び舎の/なかにいそしむ/栄えある我ら」と詠み込まれている。
しかも、案内された古い講堂の壇上中央には、大きな国旗「日の丸」が描かれ、その脇には「平成元年度卒業生製作」と刻まれた「校歌」の銘板が掲げられている。平成十一年に「国旗国歌法」が制定され、同十八年改正の「教育基本法」で「伝統と文化の尊重」が明示されたとはいえ、かつて三井三池闘争の余波で荒れ果てていた当地方を立て直し、講堂に「国旗」と「校歌」を堂々と掲げる当校の見識と勇気に敬服する。
ついで午後、田川市の中心(伊田)にある福岡県立大学の講堂を会場として開かれた記念式典に臨んだ。それに先立って披露されたのが、何と糸田町の小中高生たち十数名による「和太鼓たぎり」(滾りは沸き立つこと)の見事な力強い演奏である。このグループは、まだ結成九年目ながら、今春「日本太鼓ジュニアコンクール」で優勝し「内閣総理大臣賞」に輝いたという。「旌表旗」の誉れは、百年後の今も活々と承け継がれているといえよう。
それから、晴れやかな式典の後、「象徴天皇と高齢化社会の在り方」と題する記念講演を一時間半させて頂いた。その際、開会前に記念品として貰った「LEDライト付ルーペ」が、細字のレジュメを読むのに役立った。これは私と同い齢の石坂浩二さんがPRしている何とかルーペより使いやすい。
さらに夕方六時から、近くのホテルで開かれた祝賀会にも途中まで参加した。そこで感銘を受けたことが二つある。
その一つは田川JCと四十年前から交流を深めてきた釜山RCの会長(来賓)に敬意を表して、正面に日本の「日の丸」と韓国の「太極旗」を掲げ、双方の国歌を厳粛に斉唱したことである。さわやかな光景であった。
もう一つは、隣り合わせた福岡県立大学の柴田洋三郎学長から承った話である。長らく九州大学医学部に勤めてきた同氏は、電子顕微鏡を駆使している。その電顕を造る日本の技術が現在世界トップレベルにある要因は、六十年程前からハゼの分類研究に電顕を活用された皇太子殿下(今上陛下)が、その製作現場を視察し感謝の気持を伝えられたことによるという。陛下や殿下のお出ましには、そんな影響力もあるのかと感じ入ったのである。
なお、翌十九日(日)は、大阪市内で「日本をよくする大阪の会」に出講し、国旗・国歌の普及に根気強く取り組んでいる人々との懇親会でも話が弾み、終車で帰途についた。    (十一月二十日記)

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