「みんながうれしいのが一番」のできる人



「みんながうれしいのが一番」のできる人

                               京都産業大学名誉教授 所 功

 

明けて迎えた令和4年(2022)は、どんな年になるだろうか。新元号「令和」は「令(よ)き和(なご)やかな」平穏な社会の実現を理想として掲げた。けれども。その翌年初めから新型コロナウィルスのパンデミックにより、ほとんどの社会活動が急ブレーキを余儀なくされた。

その自粛中、私は既刊書に入っていない雑誌類の拙稿を『未刊論考デジタル集成』として出すため、若い学友らの協力をえて準備を進め、満80の誕生日<12月12日>に第一期分①②③をDVD-ROM版で公刊した。

その編集作業や新稿執筆は、妻のリハビリ看護(みまも)りを兼ね、居間でテレビを垣間見ながら続けている。視る番組は歴史関係の特集が置く、NHK大河ドラマ『青天を衝け』も毎回、BSか地上波で楽しむことができた。

そこで、私の心に響いた言葉のひとつは、渋沢ゑい(1811~1874)が、実質長男の幼い栄一に語り聞かせた「みんながうれしいのが一番。でも身近な人から大事にしなされ」という一見平凡な訓えである。

ただ、渋沢の本家を支えたゑいが、この通りに言ったかどうか確かめ難い。栄一自身は古希過ぎに「論語処世談」(大正4年『実業の世界』掲載)で、「私の母は‥‥非常に人情の深い慈愛に富んだ女であった」と述懐している。

その母と謹厳な父市郎右衛門(1809~1872)に育てられて大成功した栄一(1840~1931)の伝記資料は、岩波書店から出版されており、都内(飛鳥山公園)の資料館において閲覧もできる。

この言葉は、それらを調べ尽したドラマ作家の大森美香さんが、栄一の原点として感じ取った核心を、このような金言に仕上げられたのであろうか。

これに似たことをモットーにして実践した一人が、「アンパンマン」の作者やなせたかしさん(1919~2013)だと思われる。PHP研究所編『やなせたかし 明日をひらく言葉』(平成24年)などに「人間が一番うれしいことは、みんなを喜ばせることだ」とみえる。

 さらに渋沢と同じく「道徳と経済の一体的実践」を探求した廣池千九郎(1866~1938)も、自分と相手と世間の「三方よし」(オールウィン)を唱えた。願わくば、このような思いを共有して、本当の幸せが実感できる新年でありたい。(『歴史研究』令和4年1.2月合併号掲載)

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