「皇室会議」の現行規定と改正への提案
(京都産業大学名誉教授) 所 功
初めに自明の事実を確認しておこう。
古代から続く天皇は、地位を「世襲」し「象徴」の任務を果たすことが、現行の憲法で求められている。
その皇位を継承できるのは、現行典範で「男系の男子」に限られているが、幸い現在、今上陛下(64歳)の弟君の「皇嗣」秋篠宮殿下(58歳)と長男の悠仁親王(17歳)が健在であるから、当分安心してよい。
しかし、天皇・皇后(60歳)両陛下と皇嗣・同妃(57歳)よりも若い皇族は六名(男子一名のみ)しか居られない。それゆえ、皇室の公務を分担できる男女皇族を、何とか減らさないようにし、少しでも増やすようにする必要がある。
現在、「皇族数の減少」対策として、二つの案が有力視されている。㈠皇族女子が婚姻されても皇族の身分を保持しうるようにする案、㈡旧宮家皇族の男子孫を現存宮家の養子として皇族にする案である。これによって与野党の合意を形成し、典範(九条・十二条)の原則に例外を認めるような法改正が進められようとしている。
現行典範の「皇室会議」で可能なこと
ただ、この法改正に先立ち、当事者である皇室の方々(天皇と皇族たち)の意思(意向)を確認すべきではないか。それには、「皇室会議」(皇族二名、三権代表八名)を開き、皇族議員から皇室の一致した見解を表明して頂くことが考えられる。
では、これを現行典範で実施することは可能だろうか。念のため、その第十一条をみると、婚姻以外のケースについて、次のごとく定められている。
①年齢十五年の内親王および女王は、その意思に基づき、皇室会議の議により、皇族の身分を離れる。
②親王[皇太子及び皇太孫を除く]、内親王及び女王は、前項の場合の外、やむをえない特別な事由があるときは、皇室会議の議により、皇族の身分を離れる。
これによれば、天皇と皇嗣は除かれるが、皇族として生きられた男女は、「その意思に基づき」「特別な事由のある場合」皇室会議で協議して適当と判断されたら離籍しうる。
そうであれば、皇族を確保する方策として、皇族女子が婚姻後も皇室に留まれるとか、旧宮家男子孫を皇室に入りうる、というような法改正にあたり、当事者の皇族に「意思」「事由」を確認するために、皇室会議を開くことは可能だと考えられる。
「皇室会議」の改善にも必要なこと
けれども、現行典範には重大な不備がある。その最たるものは、明治の憲法と並ぶ欽定の旧典範ですら、第六十二条に「将来此の典範の條項を改正し、又は増補すべき必要あるに当たりては、皇族会議及び枢密顧問に諮詢(しじゅん)して、之を勅定すべし」と定めていたが、新典範には改正条文がないことである。
そのせいか、施行から数十年一度も改正されていない。数年前、平成の天皇から表明された御意向に沿う〝高齢譲位〟を可能にする際も、「特例法」の形に留めざるをえなかったのである。とすれば、今回も特例法とされる公算が強い。
しかし、仮にそうなっても、これから数年かけて全条項を見直す必要があろう。その上で旧典範とその増補を参考にして、現行典範に改正条文を設け、本文の原則は大筋で残しながら、現実に即した例外も認めるような改正をすべきだと考える。
その見直しと法改正の案作りを担当するのは、政府内の「皇室典範改正準備室」であろう。とすれば、その段階で少なくとも皇室会議の皇族議員に重要な情報を伝え、皇室の方々の意向を承り、成案の際に皇室会議を開くことなら出来るにちがいない。
ともあれ、皇族女子を当主とする宮家を新設するためにも、旧宮家男子孫を現存宮家へ養子とするためにも、当事者である皇室の方々に十分な理解を得なければ、スムーズに実現し難いであろう。それを予測すれば、現段階で皇室会議を開き、皇室の「意思」を確認しておき、将来の本格的な改正にも役立てることが望ましいと思われる。 (令和六年四月一七日記)