著名な皇統男系論者への疑問



著名な皇統男系論者への疑問
(京都産業大学名誉教授) 所  功
ここにいう著名な皇統男系論者とは百地章氏(国士舘大学客員教授、日本会議政策委員)である。同氏の提言「女性皇族のため『婚姻特例法』を」が「産経新聞」本日(4月19日)の「正論」に掲載されたのを拝読して、頗る疑問を感じた。
その中で、○イ「宮家」は「男系の皇族の危機」に備え・・・るものだから・・・歴史上の女性宮家など存在せず・・・創設など考えられない、という。
また、○ロ「女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持する案」に基づく特例法、(ⅰ)対象とされる皇族女子は・・・「内親王」のみとすべきだろう。・・・(ⅱ)女系皇族の誕生を回避すべく、配偶者と子は皇族としないこと、という。
続いて(ⅲ)婚姻に際しては・・・「皇族会議」を経るようにすること。・・・(ⅳ)この制度は、あくまで「皇室のご意向」と「本人の同意」が必要である、という。
この(ⅲ)(ⅳ)は、私も大切な要件と提唱していることである(本欄4月12日・13日掲載)。ただ、これは当然「旧宮家からの養子案」の特例法にも不可欠であろう。

女性・女系天皇容認と夫婦別姓反対論
賢明な百地氏は、頑固な原理論者ではない。同氏著『憲法の常識、常識の憲法』(平成17年、文春新書)によれば、「万一の場合には、皇統を守るために、女帝さらには女系の選択ということもあり得る」と明言されている。
しかし、それ以上に「男系維持のための「旧皇族の養子特例法(仮称)の成立」が必要と強調される。この「旧宮家」とは、昭和二十二年(一九四七)に皇籍を離れた方々(大半他界)でなく、その若い男子孫であろうが、その男系女子ならば容認されるのだろうか。
一方、同氏は一般家族の「夫婦別姓」論に反対して、「夫婦別姓を選択すれば、親子別姓にもなる」から「親子の一体感の希薄化や子供の不安感などが生じ、成育に支障を来すことも考えられる」という(「産経新聞」平成15年12月13日談話)。しかし、皇室の場合は、皇族女子のみ皇族に留まるが、「配偶者と子は皇族としない」(俗姓のまま)として「親子別姓にもなる」ことの「悪影響」は考え及ばないのだろうか。

皇族女子当主の先例と皇女降嫁の実情
以上の疑問は見解の相違として一蹴されるかもしれない。しかし、前引の○イに関しては、史実の認否・解釈を是正する必要があろう。
まず「歴史上『女性宮家』など存在せず」というのは史実に反する。本欄(3月12日掲載)に記したとおり、幕末の桂宮家では継承男子がえられないため、仁孝天皇の皇女敏宮淑子内親王(一八二九~一八八一)が文久二年(一八六二)第十一代の当主に迎えられ、いわゆる「女性宮家」となっている。
また百地氏は、「女性皇族〈皇族女子〉が臣下(民間人)と婚姻後も皇族の身分を保持した例」として「仁孝天皇の皇女の和宮親子内親王が第14代徳川家茂のもとに嫁がれたケース」などをあげる。しかし、これは中国流の夫婦別姓(同姓不婚)を原則とする在り方にすぎず、明治の皇室典範・同増補以降、皇族女子が降嫁すれば、夫君の宮名か家名を称するように近代化されている。それを無視して前近代の例を引くのは無理であろう。              (令和六年四月十九日記)

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