小灘一紀画伯の『古事記絵画展』を観て稽える
京都産業大学名誉教授 所 功
古典を学ぶには、文字で可能な限り正確に読み取ることが重要なこと、申すまでもない。しかしながら、そこから感じたイメージを精魂こめて絵画に描くことも、その理解を助け育むにちがいない。
たとえば、二十年ほど前から『古事記』の神話・伝説を描き続けてきた洋画家の小灘一紀氏(日展理事・昨春「日本藝術院賞」受賞)の名作である。その大部分が、六月二十七日から十月十五日まで、伊東市の池田20世紀美術館で特別展示されている。
この展示図録『神々の微笑』二冊を上品に編集されたのは、小灘画伯の賢夫人礼子さん(皇學館大学卒業生)である。そのオープニング・レセプションに招かれ、門外漢の私も拙い挨拶をさせて頂いたが、それぞれの名作から受けた感銘は、まさしく筆舌に尽くしがたい。ぜひ多くの方々に参観してほしいと念じている。
ちなみに、太安万侶作の『古事記』序(漢文)の冒頭部分に、「古(いにしえ)を稽(かんが)へて、風猷(道義)の既に頽(すた)れたるを縄(ただ)し、今を照らして、典教(徳教)の絶えんとするを補ふ」とみえる。
『古事記』の内容は、単なる昔の物語でなく、神話・伝説も含めて、人倫の道(人としての在り方)を学ぶ「稽古照今」の古典としても、見直す必要があろうと思われる。 (令和六年六月三十日記)
歴史研究第721号・巻頭随想「洋画家の描く『古事記』の神話・伝説
小灘一紀・古事記絵画展 小灘絵画展パンフ