皇位継承者は「皇統に属する皇族」



皇位継承者は「皇統に属する皇族」     京都産業大学名誉教授 所  功

「皇族数の確保」方策に関する国会の与野党協議は、七月に入り殆ど報じられなくなった。七年前からの「先送りできない課題」を、一体いつまで棚晒しするのだろうか。

けだし、その合意形成が容易でないのは、皇族女子が結婚後も皇室に留まれるようにすれば、やがて女性天皇から女系天皇まで生まれる道を招くことになるにちがいない、と思い込み言い張る論者の圧力が強いためだろうとみられる。

古来の「皇儲」は「皇統に属する皇族」

そこで、皇位継承者である本質的な必須要件は何かを端的に申せば、それは「皇統に属する皇族」身分にある方々、というに尽きる。もっとも、従来その皇族は男性が大多数であり、男子優先であった史実のもつ意味は大きい。しかし、さりとて女性天皇が七方九代おられた史実も意味があり、無視してはならない。

何度も指摘してきたが「大宝(養老)令」にも公認されていた「女帝」である称徳天皇の御前で、宇佐八幡へ赴き神託の真偽を確かめてきた和気清麻呂(37歳)の復奏は、『続日本紀』に次のごとくみえる(丸括弧内は『日本後紀』清麻呂薨去伝により補う)。

我が国家は開闢(かいびゃく)以来、君臣(の分)定まりぬ。臣を以て君と為すこと、  未だこれあらざるなり、天つ日嗣は必ず皇緒を立てよ(続けよ)。無道の人(道鏡、  悖逆無道)は宜しく早く掃除すべし。

これによれば、わが國で大昔から定まっているのは「君臣の分」(君主と臣下の区別)であり、道鏡のような臣下を君主にした例はないから、「天つ日嗣」(皇位)には必ず「皇緒(儲)」を立てなければならない。つまり皇位継承者は皇統に属する皇族のみで、君臣の分別を乱さぬことこそ重要とされる。しかし、皇族女子を否定してはいない。

国体学者の改正案と社研重鎮の逆説

ところが、近現代に入り旧新の『皇室典範』は、皇位継承者を「皇統に属する」だけでなく、「男系の男子」に限定した。それは相応な理由があったにせよ、この原則で皇位を永続することは難しい場合の例外も認めておく必要があろう。

そう考えて、既に昭和三十年代から『万世一系の天皇』『憲法・典範改正案』(共に錦正社)を公刊したのが、「日本国体学会」の創立者里見岸雄博士(一八九七~一九七四)である。同氏によれば、天皇は古来の「家系・血統」を継いでいると共に、道義的・精神的な「統治」(しらす)任務を果たす特定の御方である。そこで、現行の典範を改正して「皇位は万世一系の皇統に属する皇族によって継承される」とした上で、その継承として「皇族男子の無い時は、皇統に属する皇族女子」をあげている。

一方、典範改正論議の始まった平成十七年(二〇〇五)、『「萬世一系」の研究』(岩波書店)を出版したのは、東大の社会科学研究所で長らく重きをなした奥平康広教授(一九二九~二〇一五)である。同氏は新典範制定時の「想定問答」を逆用して「皇族女子が天皇に就任し、独身にとどまることなく民間人から夫をむかえて入り婿(皇婿=皇夫)とするというばあいには、両者に生まれた子孫は、男性たる夫の氏姓を名乗るのが当然だから、異姓=他姓となる(ので)・・・皇統が途絶えたことになる」(一三六頁)という。

しかし、これは意図的な誤解であろう。皇室には昔も今も「姓」がない。従って、民間女性が皇籍に入れば俗姓が無くなり、もし皇族女子の宮家に民間男性が入夫となれば同様に俗姓が無くなるから、その子孫にも姓は無い。

(令和六年七月二十三日記)

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