日本のソフトパワー/第15回 天皇陛下、高齢譲位のご意向から学ぶこと



去る七月十三日夜NHKテレビにより「天皇陛下〝生前退位〟のご意向」が特報された段階から「数年以内の後譲位を望まれているということで、天皇陛下自身が広く内外にお気持ちを示す方向で調整が進んでいます」と伝えられていた。

 

八月八日の〝玉音放送〟を拝聴して

それが、八月八日午後三時から約十一分間「象徴としてのお務めについての天皇陛下のお言葉」という題のビデオメッセージとして全テレビ局から放映された。また宮内庁ホームページに和文と英文で掲載されている。(動画も視聴できる)

当日、私はNHKの依頼を受け、陛下と親交のある堤剛さんと共に、スタジオで中継を拝聴した。

「お言葉」は、凛とした玉音で読み上げられ、大多数の人々に感銘を与えられたが、私も所感を求められ次のようにコメントした。

「陛下が、これまで国のこと、国民のこと、今後のことを本当に深くお考えになって、この三十年近くをお務めくださったこと、これを将来にわたり続けていくにはどうしたらよいか、考えに考え抜かれて、このようなお言葉になっているのだと思われ、大変心打たれました。」

これは昭和二十年(一九四五)八月十五日の玉音放送につぐ。〝平成の玉音放送〟と称しても過言ではないから、その御真意を正確に理解する必要がある。

それを私はnippon.comのWEB用に「退位の思い滲む〝お言葉〟を読み解く」と題して書いたが、ここには要点のみ記し、今後の課題について管見を提示させて頂こう。

 

「お言葉」からわかる象徴天皇の「お務め」

陛下は憲法の第四条「天皇は、国政に関する権能を有しない」に配慮して、専ら「象徴としてのお務め」を、天皇ご自身がどんな思いで行って来られ、今後どのような在り方が望ましいかを率直に語っておられる。

その「お務め」は、憲法の定める「国事行事」だけでなく「伝統の継承者として、それ(宮中など)を守り続ける」と共に、「象徴と位置づけられた天皇」として何をすべきか「日々模索しつつ、人々の期待に応える」ため、いわゆる公的行為に「全身全霊をもって」取り組み続けてこられたのである。

それらは「国民統合の象徴」という地位にある天皇ご自身が行うべきものであって、徐々に削減したり「摂政」に代行させてすむことではない。だから、二度の手術を受け八十代に入って、体力の低下も進む現在、その地位を次の世代に譲ることで「象徴天皇の務めが常に途切れることなく安定的に続いていくことをひとえに念じ」ておられるからである。

 

超高齢化社会に率先して規範を示される

こうして示された「退位のご意向」は、どうしたら実現できるのだろうか。この点に関して注目されるのが、七十年前の昭和二十一年十二月、新皇室案を審議した帝国議会の貴族院における佐々木惣一議員(京大教授)の提言である。

議事録(国会図書館WEB公開)によれば、旧典範と同じく終身在位を定めた草案の第四条を批判する中で、「天皇が‥国家的見地から自分は此の地位を譲ることが良いとお考えになる‥ならば‥一定の機関(国会)も、それが国家の為になるかどうかと云うことを判断し‥(双方)合致した‥ならば‥退位せられる‥構想は、‥公正なる立場で出来ると思ってゐる」「それに依って国家の行くべき道、又国民が自己を律すべき道と云えるようなものが‥教えられると云うことになる」と述べておられる。

今回判明した「退位のご意向」は、単にご自身のためでなく、現に百歳を越す方もおられる皇室で、「象徴天皇としてのお務め」を十分担当できる若い後継者への引き継ぎを可能にする、まさに「国家的見地から」のごと拝される。新憲法のもとでは、それを国会も「国家の為になる」と判断し合意する必要があるけれども、それが実現するならば、超高齢化社会に生きるトップリーダーにも「自己を律すべき道」のを示されることになろう。

 

当面「特措法」で対処しても早晩「典範」改正必要

もう一つ参考になるのは、当時、典範案審査会の幹事を務めた宮内府(のち庁)の高尾亮一氏が、昭和三十七年(一九六二)憲法調査会に提出した「皇室典範の制定経過」(国立公文館WEB公開)である。典範で終身在位を原則としても「もし‥退位が必要とされる事態を生じたならば、むしろ個々の場合に応ずる単行特別法を制定して、これに対処すればよい」と述べておられる。

これは現実的な対処法かもしれない。しかし、陛下は「どのように身を処していくことが国にとり国民にとり、私の後を歩む皇族にとり良いことであるか」を考えておられることに深く思いを致せば、一代限りの特別措置法だけでよいはずがない。

現に「法」で天皇が退位され皇太子が「」として即位されても、「次の皇太子が不在になる」ことは、七月十三日の第一報でも指摘されている。なぜなら、典範の第八条に「皇嗣」は「皇子」(天皇の男子)か「皇孫」(天皇の男孫)だけをあげ、「皇弟」も「皇女」も示されていないから、秋篠宮さまも敬宮愛子内親王さまも皇嗣となれない。

従って、もし典範第一条の皇位継承者を「皇子の男子」に限り続けるならば、第八条を改めて「皇弟」を皇嗣に加え「」とする。または第九条を改めて皇族間の養子を可能にすれば、悠仁親王を新天皇を仮養子として「皇太子」に立てるようなことも考えられないわけではない。

あるいは将来、万一、男子がえられないことまで心配すれば、典範の第一条・第二条を改めて、皇族女子(内親王と女王)にも継承資格を認めるほかないことになろう。

しかし、当面必要なことは、陛下の「お言葉」から読み取れる「退位のご意向」が「数年以内」(たとえば二〇二〇年の東京オリンピック前まで)に滞りなく実現できるよう、政府も国会も真剣に取り組んで頂きたい。

それは当面「特措法」で対処するにせよ、早晩典範第四条に「天皇が崩じたとき、又は皇室会議の儀により退位(譲位)したときは、皇嗣が直ちに即位する。」と付け加えるような改正をする必要があると思われる。

 

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