有力な改憲主義者の皇位継承論に要注意
(京都産業大学名誉教授) 所 功
今国会では、「皇室典範」を改正するために、国会の両院協議を「最大公約数」で纏めたら、政府が改正案を作成して国会に上程し、七月の会期内に成立させる方針だという。
しかし、国会で本質的な議論を尽くさずに、妥当性の疑わしい結論を急いでいるように思われる。
なぜなら、今や政府にも国会にも強い影響力をもっていると評されるのは、百地章氏(昭和二十一年生まれ)である。その著書『憲法の常識 常識の憲法』(平成十七年四月刊、文春新書)には、誤認と矛盾が少なくない。即ち旧典範を起草した井上毅の論を引き、(イ) 「女帝の夫は皇胤(皇統の子孫)だとしても、一度は臣籍に入りたる」ものであるなら、その間に生まれた皇子は、父方の姓を継ぐことになる・・・皇統の姓を易(か)えることになりかねないとして・・・「男系ノ男子」のみに皇位継承を認めた」(九〇頁)と説明される。しかし、これは誤認であって、日本の天皇(皇室)は、古来唯一の特別な存在だから、臣下に賜与する「姓」を自らは必要とされない(今も名字が無い)。それゆえ女帝の夫が皇室に入れば、従来の俗姓は消去され、その子が即位しても、既に無い姓に変わる訳がない。
また(ロ)「女帝を認めることは、皇室の伝統である男系を否定することであって賛成できない」と言われながら、「万一の場合には皇統を守るために、女帝さらには女系の選択ということもあり得る」(九四頁)と述べ、女帝も女系も「皇統」に含まれると解されている。ただ、「その前に是非考えてみなければならないのが・・・養子制度の復活であり、その養子も「男系男子の皇胤に限る必要がある」(九六頁)という。これでは「男系男子」でなければ、「皇胤」であっても、女帝・女系となることを認めないのだから、「万一の場合」の備えにならない、という自己矛盾に陥っているといわざるをえない。
そもそも皇室の養子は、従来すべて皇族か皇族の身分にあった当代人のみで、一般臣民が養子として皇族に入った前例はない。これを元宮家の子孫で一般国民として生まれ育った人にまで認めれば、その範囲・順序などに著しい混乱が生ずるであろう。
一方、代表的な改憲論者の西修氏(昭和十五年生まれ)は、著書『憲法改正の論点』(平成二十五年八月刊、文春新書)の中で、現実的な論を示されている。
即ち、「側室制度が廃止されている今日、男系で永続的に(皇位を)継承していくことができるかどうか・・・何が何でも「男系」にこだわることは、無理を生じかねない。・・・万一の場合に備えて、(女性天皇の)選択肢を広げておく方が、妥当ではないかと考える」(一七九~一八〇頁)と記されている。側室庶子を否定する現在、それでも〝男系男子〟を墨守することに無理があると認識すれば、少なくとも男系女子(女性天皇)も選択できるようにすることが相応しい、という妥当な見解である。
ところが、政府も与野党の大半も、百地氏のような自己矛盾の主張を信じ込み、西氏のような見解に耳を傾けないのは何故なのか。誰しも皇室の永続を念願しているのであれば、明治典範以降の「男系男子」限定という呪縛を解き、古来「皇統に属する皇族の身分にある方々により継承されてきた(ただし男子を優先し女子も公認する)在り方に立ち返る必要がある。 (令和八年五月二十六日記)

