(11)伊勢神宮の式年遷宮にちなむ覚書-前編



今なお「お伊勢さん」と親しみをこめて呼ばれる公称「神宮」において、第六十二回目の式年遷宮が斎行された。この御遷宮について私なりに関わりえたこと、また特に感じたことの若干を、ここに略述しておこう。

その一
遷宮準備の祭儀・行事への参加
今回の御遷宮に関する準備は、すでに八年前の平成十七年から始まっている。私は昭和四十年代に皇学館大学奉職中、第六十回御遷宮の諸準備に関する祭儀のほとんどを間近に拝見し、また御木曳行事や御白石持行事にも参加することができた。

ついで第六十一回に際しては、京都産業大学勤務中であった。しかし、幸いにも平成五年(1993)八月の御白石持行事には、娘が皇学館大学に在学していたおかげで、父兄として参加することができた。

さらに今回は、十年程前から伊勢神宮崇敬会の常任講師を務めたり、また神宮評議員を拝命したこともあって、平成十七年六月五日、木曾山中(長野県上松町)での御用材伐採式に初めて参列させて頂いた。古式どおりに御桶代木(樹齢300年以上)が伐り寝かされ、その切株に先端の若枝を挿して再生を祈る”株祭”なども拝見することができた。

また、翌十八年四月には、神宮会館の御好意で一日神領民として、外宮の御木曳行事に奉仕の機会をえた。さらに今年(平成二十五年)八月四日には、モラロジー研究所の応募メンバー約2500名と共に、内宮の御白石持行事に参加させて頂いた。

その間にいろいろなことがあった。今年に限っても、毎月一・二回、たとえば伊勢新聞社の創業祭、神戸木鶏クラブ、岐阜経友会、宝塚教養学校、岐阜県高校社会科教育研究会、京都産業大学同窓会、NHK大阪文化センター、中日(名古屋)と読売(東京)のカルチャーセンターなどで、御遷宮関係の講演に奔走した。

とりわけ六月二日、モラロジー研究所の本部で開催された「伝統の日」学びの集いにおいて「お伊勢さんの式年遷宮と広池千九郎」と題する記念講演を務めた。これは、明治四十年(一九〇七)神宮皇学館教授として赴任された廣池博士が、日本国体の研究成果を盛り込んだ名著『伊勢神宮』(早稲田大学出版部)を著し、それが同四十二年の第五十六回式年遷宮に際して、全国の学校で解説する教員の参考書とされたことなどの意義を、原資料に基づいて立証した。しかも、その講演内容を文章化した同題名の小冊子(ブックレット)が直ちに出版された。

ちなみに、四十年前(昭和四十八年)初版の拙著『伊勢の神宮』(新人物往来社)は、二十年前(平成五年)に『伊勢神宮』と題して講談社の学術文庫に収められた。今秋、それが三十刷を重ねるに至ったことも、喜びにたえない。

その二
皇大神宮・遷御の儀の特別奉拝
伊勢の神宮は、皇大神宮(内宮)と豊受大神宮(外宮)の両正宮と一四の別宮(内10・外4)および四三の摂社(内27・外16)と四二の所管社(内38・外4)の合計一二五社から成る。

このうち、飛鳥時代(六九〇年)から二〇年に一度という式年(一定年数)ごとに、社殿も殿内に納める神宝・装束も全て造り替えるることが決められていたのは、正宮と別宮だけである。現在も天皇陛下の御聴許を仰いで式年総造替が行われるのは、この両正宮と十四別宮に限られる。

しかし、やがて四三の摂社も、大宮司の決裁に基づき、二十年ごとの総造替がなされることになった。今回も順々に執り行われ(荒祭宮は10月10日、多賀宮は10月13日)、明後年(平成二十七年三月)まで続く。しかも、実は末社や所管社も、破損するごとに修理を加え、式年遷宮の機会に建て替えることが多いから、さらに数年を要する。

その最初に執り行われるのが、皇大神宮正宮における遷御の儀である。それを私は二十年前(平成五年)に特別奉拝させて頂いた(四十年前には外宮)。従って、今回はお招きがないだろうと思い、夏前に三重テレビから当日中継解説の依頼を引き受けた。しかし、まもなく神宮司庁より特別奉拝の御案内を賜ったので、その役は皇学館大学の清水潔学長に代わってもらった。

さて、好天に恵まれた十月二日、正午に伊勢の宇治に着いた私は、従来の正宮と荒祭宮へ最後の参拝をした。ついで一時から「産経新聞」九月三十日朝刊に掲載された拙稿(別掲)を依頼して来られた編集委員や若い記者と「すし久」で昼食をとった。さらに二時から、TBSの朝ズバ(三日放映)用インタビューを赤福の五十鈴塾で録画した。

今回は、数年前から神宮・遷宮に関するマスコミの取材が段々盛んになった。それに応えるため、神宮司庁が初めてプレスセンターを設けたせいか、新聞もテレビも前回より正確で好意的な報道が多かったように思われる。

(10月10日記、以下次回)

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