<モラロジー研究所教授>所 功
言論・表現の自由は、可能な限り尊重することが必要であり、それにマスコミが果たす役割は大きい。だからこそ、その人々は、関係者を一方的に傷つけたり、視聴者や読者等に無用の誤解や混乱を生じないよう、正確で良識的な報道を心がけなければならない。
しかしながら、近年の週刊誌等には、不正確で非常識な記事が余りにも多すぎる。とりわけ、『週刊新潮』六月二十日(十三日発売)が、七ページも費やした特集「”雅子妃”不適格で”悠仁親王”即位への道」は、常軌を逸した暴走記事であり、これを黙過することはできない。
そこで、発売当日、内閣官房と宮内庁は、連名により公式文書で同紙の編集長に対し、異例の「厳重抗議」を行っている。また同日の記者会見で、菅内閣官房長官も、風岡宮内庁長官も、「極めて遺憾で」「強い憤りを感じ」「速やかに訂正記事を掲載するよう求める」意向を表明された(会見要旨は総理官邸と宮内庁のホームページに掲載)。さらに全国紙等が、その要点を翌日朝刊に報じている。
従って、同紙の記事は「全くの事実無根」とみられ、そう否定された以上、同誌としては直ちに「訂正記事」を出すのみならず、皇室に謝罪しなければならない。ところが、「朝日新聞」によれば、同誌編集部から「記事は機密性の高い水面下の動きに言及したものです。内容には自身を持っております」とコメントがあったという。
これは、洵に由々しき異常事態と憂慮せざるをえない。私は六月十日、同誌の記者から電話取材を受けたが、その内容はどう考えても荒唐無稽と感じたので、コメントを控えた。その時のメモによれば、宮内庁が「皇室典範」の改訂作業を進めて「天皇の退位、譲位を可能にする」「それを皇位継承者が辞退することも容認する」という案を、内閣に伝えて検討中だとの「確かな情報」をえたが、どう思うか、という問い合わせである。
しかし、すでに天皇陛下も皇太子殿下も明言されているとおり、現行憲法の制約に従って「皇室典範」という法律を改めるのは、内閣と国会が扱う政治問題であって、宮内庁が勝手に案を作ったり政府に働きかけるようなことはありえない。
しかし、今回の記事は、皇后陛下が「雅子妃に皇后は無理の断を下した」のみならず、天皇陛下が「皇太子即位の後の退位」も「秋篠宮は即位すら辞退」して「悠仁親王即位への道」を開くことにも、三者の「頂上会談で了解された」と断定し、そんな「深い事情」があるので、それを受けて宮内庁から「皇室典範改正を打診した」のだという巧妙なストーリーをデカデカと見出しにしている。
無論、こんなことはあろうはずがない。新潮社も編集部にネタを持ち込む工作をしたであろう人々も、これによって皇室の方々がどれほど傷つかれたかに思いを致し、厳に軽挙妄動を慎むべきであろう。
天皇(皇室)制度は、二千年来の伝統および国民の信頼と敬愛により、安定し継続されていく。それを揺るがせたり壊すような虚報や煽動は、決して認められず、断じて許してはならない。
(平成二十五年六月十六日、香淳皇后十三年例祭日の朝記す)
<追記>
小学館の『週刊ポスト』六月二十八日号(十七日発売)が「宮内庁でも議論噴出!”秋篠宮を摂政に”は是か非か」を特集し、この案を八木秀次氏が「最も現実的な選択肢だ」と評価しているとか、佐々淳行氏が「秋篠宮殿下に摂政をお任せしてはいかが」と勧奨しているという。これも『週刊新潮』と連動した暴論というほかない。
(七月十八日朝記)