旧宮家子孫の養子皇族化案は再検討必要



旧宮家子孫の養子皇族化案は再検討必要
京都産業大学名誉教授 所  功

およそ法制度は、人間が社会で安心して生活するため(目的)に必要なルールを明文化するもの(方法)である。それには原則を立てるが、例外も認め、状況の変化などを考慮して修正を加えることにより、末永く持続可能となろう。そのような観点から、本日(六月八日)衆参両院議長によって公表された「皇族数の確保」に関する「立法府の総意」報告(とりまとめ案)に対して、とり急ぎ問題点を指摘する。

まず議論の大前提は、現行の日本國憲法を最高法規として考えることである。それは第一章を「天皇」とし、第三章の「国民」と区別しており、その第一条に天皇は日本国・国民統合の「象徴」であり、第二条に皇位は「世襲」と定めている。

ついで皇位継承の在り方は、国会の議決した法律の新皇室典範に書かれ、その第一条に「皇位は、皇統に属する男系の男子が、それを継承する」と定められている。これは明治二十二年(一九八九)制定の旧皇室典範を受け継いでいるが、皇位継承の来歴と法の平等性に照らして、「皇統に属する男系」までは是認できるにせよ、それを「(皇族)男子」にのみ限定することは容認し難い。本質的に大切な要件は、「皇統に属する皇族(皇室で生まれ育ち皇族の身分にある男女)が実在されることであって、それを男子に限り女子を除くのは行き過ぎであろう。

そこで、今回の報告を見ると、政府の示した第一案にいう「内親王・女王(皇族女子)が(一般男性と)結婚後も皇族の身分を保持する(女子を当主とする宮家を作る)こと」としたのは一歩前進と評価して良い。しかしながら、その夫と子を皇族とするか一般国民のまま据え置くかは決めないで先送りする(結局皇族にせず一代限りで終わらせる含みらしい)のは遺憾である。これは皇族男子が一般女性と結婚されたら、その妃も子も皇族にすると定める現行法と同様にしなければ、法の平等に反する。

もし、皇族女子の夫も子も皇族にしなければ、その家(報告は「女性宮家」の創設自体を明言していない)では、皇族身分の当主と一般国民の夫と子が同居する、という不自然な差別状態になる。ちなみに、我々国民ですら「民法」第七五二条に「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」、また第八七七条に「直系血族(親・子・祖父母など)は、互いに扶養する義務がある」と定められている。

しかし、第二案により創設される新宮家では、身分の異なる当主と夫・子が同居することになる。このような形で家族(少なくとも夫婦・親子)一体の共同生活を営むことは難しいであろう。皇室は国民のお手本であり、今上陛下を中心に皇后陛下と敬宮愛子内親王が互いに助け合い支え合っておられるような在り方こそ望ましいと思われる。

そのためには、新女性宮家は夫も子も皇族となって生活され活動されやすいような制度にするのが当然であろう。ところが、夫も子も一般国民のままであれば、その生活費が皇族としての「皇族費」を得られず、その公務(お出かけなど)に同伴されても皇族でなければ費用を別に工面し、警備も臨席の仕方なども別の形で行うほかなくなるのではないか、と懸念される。

ついで政府の示した第二案の「皇族には認められていない養子縁組を可能とし、皇統に属する男系の男子を皇族とする」ことは、極めて問題が多く、よほど慎重に検討しなければならない。そもそも養子縁組というのは、養子を出す側(家・人)と養子を迎える側との合意によって成り立つが、それを明治以来の皇室典範で禁じてきたのは、皇族と皇族の間の養子縁組ですら、双方が絡むと「宗系紊乱」(皇統混乱)の弊害を生ずる恐れがあるからであり、皇室では原則的に認め難い。

また、その対象を「皇統に属する男系の男子」と言いながら、「昭和二十二年十月に皇籍を離脱した、いわゆる旧十一宮家の子孫である男系の男子の方々」としている。しかし、その子孫は一般国民として生まれ育った人だから、皇族ではない。そこで、無理に養子として皇族にするということを、対象者(家・人)に対して要請する案を考えたのであろう。けれども、これは対象者と関係者にとって大変な負担であろうし、同じ日本国民の中に「門地による差別」を禁じている現行憲法に反する恐れがある。

それにも拘わらず、今回このような案を政府も国会の与野党多数も「了」とした背景は、皇族身分の方が少なすぎて皇室に求められる公的活動などの分担が困難になっているからであろう。もしそうであれば、旧十一宮家の「男系男子」にこだわらず、男系の女子にも広げる検討もされたらどうであろうか。実は旧十一宮家というが、男系の男子が現存するのは四家にすぎず、その四家すら今後も男子孫が続くとは限らないのだから、他に男系の女子で相続されている家も含めるくらいの柔軟さが必要であろう。

さらに、今回の案では、(1)「養子となり得る者の年齢」、(2)「養親となり得る者の範囲」、(3)「具体的な手続き等の要件」、(4)「養子となって皇族となられた方は皇位継承資格を持たないこととすること」などを慎重に考えて制度設計を行う」としている。
このうち、(1)は有力紙の報道によれば、「民法」七九七条で、普通養子縁組も十五歳未満なら親権者の承諾を要するが、十五歳以上なら本人の意思で承諾しうるので、十五歳以上を想定しているという。しかし、多くの人は中学卒業ころまでに基礎的な知識も思考なども形成されているといわれているが、それから皇室に養子として入り皇族に必要な「品性」を保持することは極めて難しいと想われる。

そのためか、(3)では養子本人に皇位継承資格を認めないとしたのであろうが、本日、案の公表直後の記者会見によれば、そのような養子皇族の男子孫には皇位継承資格を認める方向で検討するという。もしそうであれば、一方で皇族女子の夫も子も皇族とせず皇位継承資格を否定しながら、他方で養子皇族の男子孫にそれを公認するのは、法制の公平性に反する不適切な措置というほかない。

これ以上に問題が多いのは、(2)にいう養親の範囲である。森議長の説明によれば、「天皇家・上皇家・皇嗣家については、養親となることができないとすることを想定して」いるという。そうであれば、それ以外の宮家には未婚者として、三笠宮家に①彬子女王(44歳)と②瑤子女王(42歳)、高円宮家に③承子女王(40歳)の三方がおられる。

そこで、「皇族数の確保」に資するため、皇族女子のうち、内廷の敬宮愛子内親王(24歳)と皇嗣家の佳子内親王(31歳)は、前述の第一案により一般男性と結婚して新宮家を作られ、他の①②③の三方も、生まれ育った各宮家を相続するため一般男性と結婚されるならば、養子を必要としない。念のため、いわゆる旧宮家の男子孫との結婚というケースもあるかもしれないが、それは婿取りであって第二案にいう養子ではない。

そうであれば、養子先の可能性は、御子のない常陸宮家のみであるが、同家で養子を希望されているか否か不明であり、ないかもしれない(秩父・高松両家のごとく絶家となっても、祭祀は多の宮家で引き受ける)。それにもかかわらず、第二案を制度化すれば、その有効性を示すために、高齢(90歳)の殿下に養子を受け容れるように外部から圧力(政略)を加えられる恐れも生じかねない。

もしこのように現存皇族が養子を取られない場合、「皇族数の確保」を名目として、現在の内廷と宮家に関係の薄い別の宮家を、旧宮家の男子孫により数家(一説には四家ほど)立てるための養子であれば、現皇室と疎遠な伏見宮系皇族(その男子は、悠仁親王に男子が生まれなければ、次々即位できるグループを作り出すことになろう。

このような人為的で恣意性の伴う養子案は、極めて危険であり、合理的な法制化は不可能に近いのではないか。それでもなお養子皇族化を強行するのは、ひたすら男系男子孫のみを絶対原理と信じ込む人々の独りよがりといわざるをえない。
(令和八年六月八日記)

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